3-10 それは言っちゃだめなやつ
早朝。
私、カイル、アズアズの3人は、ロスヒハト牧場の小屋の一つに立て付けられた大鏡の前にいた。
そこから移動魔法で、ポルテナ・エルポーニ、それに加えてメルネ・フロウデンは現れた。
今日はウェステリア魔法女学院は休日だった。
「ステラ先輩、アズカット先輩、お久しぶりです!」
メルネは言った。
「どうも」
眠そうなポルテナは気怠げに言った。
「メルネ、ポルテナは久しぶり!...と言っても、昨日話したばかりだけどね」
「それでも、また直接お会いできてすごく嬉しいです!」
「そっか」
「ポルテナさんに用があるのだけれど、メルネさんは別についてこなくてもよかったのよ?
せっかくのお休みなのに...」
「いえ!ステラ先輩の妹さん、どんな人か見極めなければなりませんから。
もしそれがステラ先輩を傷つけるようなひどい人だったら、その人の代わりに私がステラ先輩の妹になります!」
「そ、そう...」
引き気味のアズアズも気にせず自信満々に話すメルネは、この中で唯一初対面のカイルに気がついた。
「あの...そちらの方は...
まさか、あなたがステラ先輩の妹...!?」
メルネは私を盾にしてカイルをじっと見つめた。
「カイル・リギモルです。ステラと旅をしてます。
あと、妹じゃないです。よろしく」
「そ、そうですか...失礼しました!よろしくお願いしま—」
そう言って、2人は握手した。
しかし—
「つかぬことをお伺いしますが、あなた...男の子ですか?」
メルネは神妙な面持ちで言った。
「はい、そうですが」
「な...」
メルネはステラの前で両手を広げ、顔を真っ赤にして盾になった。
「ステラ先輩が知らない男と旅...!?
破廉恥です!私がこのけだものからステラ先輩を守らなきゃ!」
「いや、どう見ても男でしょ...」
と、思っていたけれど、確かによく見ると顔は少し可愛いところはあるし、
帽子の後ろから伸ばしている二束の髪...
ウサギのイメージが先行していたが、よく考えたらこれは確かにただ巨大すぎるだけのツインテールだ。可愛い。
...おかしいな、カイルはもしかしたら女の子なのかもしれない。
「確かにちょっと女の子っぽさもあるかも...」
私がそう言うと、カイルは眉をひそめた。
「それで、カイルは男の子、なのよね...?」
アズアズも思わず聞いた。
「そのつもりだけど...俺、そんなに男らしくないか...」
カイルはぼそぼそとそう言って、青覚めた顔の顎に手をつけた。
弱々しくしわしわの生き物みたいな顔になったカイルは、様子を見にきたグルーさんが見かねて連れて行った。
パタンと扉が閉まる。
「ふう、危機は去りましたね」
「ふう、じゃないわよ」
その間に、ポルテナは何度も移動魔法の大鏡を入ったり出たりして、
学院へアイスクリーム用のミルクをロスヒハト牧場から運び終えていた。
「で、件の妹さんはどちらですか?」
ポルテナは聞いた。
私たちは小屋をでた。
牧場の外、山中の森のひらけた場所で、ベルが歌を練習しているからとそこに向かった。
ーーー
「今度こそ、ステラ先輩の妹を名乗る不埒な輩を打倒して、私が本物の妹になります...!」
「前半は完全にあなたの自己紹介ね...」
ザクザクと足音を鳴らしながら歩いていくと
ベルの歌声が聞こえてくる。
日の光が差し込むその場所で、ベルは歌っていた。
透き通る歌声が響き、森を優しく揺らしていた。
私たちは何を言うでもなくその歌を聴いていた。
メルネもただ黙ってそれを聞いていた。
歌が終わる。
メルネはいつの間にか外していた眼鏡をかけなおして、ベルの方へ駆け寄っていった。
「あなたの歌...すごいです!本当にすごいです!
私だけじゃないです!周りでこっそり聞いてた動物たちも喜んでたんです、ほんとうですよ!!!」
メルネはベルの手をとって言った。
ふと森の方を見ると、見るからに魔物な禍々しい見た目の鳥が止まっていた。
私に見られているのに気付いて、私を睨み返したあとスッと何処かに行った。
他にもリスみたいなのとかもいて、みんな同じように私に見られるとどこかへはけていった。
「えへへ、ありがとうございます」
メルネに手を激しく振られているのに、ベルは動じていなかった。
「私は聴くのは初めてではないけれど、何度聴いても演奏があると錯覚するわ」
アズアズが言う。
「だよね」
「...な、何あのクマは!?」
突然アズアズが驚いて指をさした。
向こうを見ると、見たことのある影があった。
「ベアだ」
彼女はカイルの唯一の家族であるクマ、ベアだ。
森を通ってこっちに来てていたのか。
近寄ると、カイルがベアを撫でているのがわかった。
「先に来てたんだ」
「ああ。」
「行動が速すぎない?」
アズアズが聞いた。
カイルは「木を飛び移って来た」と言った。
「ステラ先輩!ベルちゃんと少しお話してきてもいいですか?」
いつの間にやら2人は仲良くなっていたみたいだ。
「メルネちゃんすごいんだよ!お姉ちゃんのことなんでも知ってるの!
お姉ちゃんが学院の行事で大活躍した話とか、お姉ちゃんがサウザリアレッドガラシをお—
「わああああああ!それは言っちゃだめなやつだ
ちょっとメルネ?なんて話教えてるの!?」
私が怒ると、2人は逃げていってしまった。
ポルテナに通貨をあげると、足の速いポルテナはすぐに2人を捕まえてきてくれた。
^ivi^[ネコニス'sTips]
サウザリアレッドガラシとは、パローナツ南部<サウザリア>に生育する、赤くてからーい植物のことです!
茎も実も辛いですが、真っ白な綺麗な花を咲かせます。




