3-8 会合
「よし、じゃあ早速お父さんに話をしてきます!」
「私も行くけど、頑張って!」
「うん!」
「あまり気負い過ぎないようにね」
「はい!...行きます!」
ベルは勢いよくドアを開け、駆け出した—
が、一歩踏み出した時点で何かにぶつかった。
「「ぐわっ!」」
ガチンと痛そうな音がした。
「いてて...って、お、お父さん!?」
ベルは起き上がった。
そこにはベルのお父さん—グルーさんが倒れていた。
「く、さすがベルだ。人にぶつかってもすぐに立ち上がれて、本当に強いな」
「お父さん...」
横にいたカイルがグルーさんに肩を貸して起き上がらせた。
「お父さん、あのね!...お父さん?」
グルーさんは、驚いたような嬉しいような表情をしていた。
「いや、何でもないよ」
カイルに目線を飛ばすと、彼はグルーさんを指差したのち、親指を立てた。
「私...アイドルになろうと思います!
ええと、アイドルっていうのはね、歌って踊ってみんなに希望を与える存在でね!それでね...」
グルーさんは噛み締めるようにただ頷いていた。
「こちらのデレクタさんやおね....ステラさんに協力してもらって、
麓のパストルの町で本格的なライブをする。それが最初の目的。」
グルーに心配をかけまいと、ベルは付け足すように慌てて言った。
「ああっ、二人にお願いしたのは私で、アイドルをやろうって思ったのも決めたのも私。
怪しい人に騙されたとかじゃないから安心して」
「ああ、わかってる。」
「それでその後も継続的にアイドル活動をして行って、合わせて牧場の宣伝をしたいの」
「牧場の宣伝...」
「ミルクをその場で売るのはもちろん、
観光客ができればお得意様との取引が消えても新たな商売にもなるし、
それに合わせて必要になってくる従業員の確保も可能」
「ははは、そこまで考えてくれてたんだな、ありがとう。
でもお父さん、静かな牧場が好きだから、それはいいかな。」
「でもお父さん、おじいちゃんとおばあちゃんから受け継いだこの牧場を残さなきゃって—」
「あれ、ベルにそんなこと言ったっけ—」
「...あ」
「もしかして、日記勝手に見た?」
「ごめんなさい」
「ははは、人のものを勝手に見るなんて、誰に似たんだか。
それに大丈夫、お父さんベルを育てながら何年かは一人で牧場を回してたんだから。」
「それもだけど...私が出て行くって言っておいてこんなこと言うのも図々しいかもしれないんだけど、
その...お父さんを一人ぼっちで牧場に置いていくのが...」
するとアズアズが不思議な装飾の手鏡を取り出した。
「ポルテナさんにこれ、<移動魔法の手鏡>を貸して貰えば解決できないかしら。
これを通せば遠くにいても話はできるから、寂しくはないんじゃない?」
「...ありがとうございます!」
「私からも本当にありがとうございます」
「いえ、当然のことをしたまでです」
アズアズはぎこちなく言った。
あまり他人から褒められ慣れていないのだろう。
「ステラさんも、それにカイルくんも、ありがとう」
グルーさんは言った。
「ベル...」
「お父さん」
「何と言うか、月並みな言い方しかできないんだが...頑張ってな。無理はしないように。」
「...うん!お父さんも頑張って!」
「...ああ!」
カイルはまた少し遠くから私に親指を立てて見せた。
私も親指を立て、そのままアズカット・デレクタの方を向いた。
困惑しつつも、恥ずかしそうにアズアズも親指を立てた。
ふと横を向くと、ベルとグルーさんも私たちを真似して親指を立てて、笑っていた。
またカイルを見ると、彼はそうだという感じで頷いていた。
「ああ、なるほど」
彼が最初に親指を立てたのは、あまり親子で腹を割って喋っていなかった2人が、
正直に話し合うきっかけを作ったことに対するグッジョブサインだったのだと気がついた。
「はじめまして、ベル・ロスヒハトと申します。」
「カイル・リギモルです。どうぞよろしく」
「例の、素手パンチで鎧壊した人だよ」
「ええ!?」
それから私を挟んで初対面同士だったアズカットとカイルも挨拶した。
話を聞くと、2人ともノーザラン地方出身同士で、わりと早く打ち解けて2人でノーザランあるあるを話していた。
最北端のリギモル村出身のカイルとやや東部より出身のアズアズではある程度食い違う部分もあれど、気候や植生なんかは概ね同じなのであるあるを話せていたのだ。
そもそもこのロスヒハト牧場もノーザランなので、グルーさんやベルもそれに食いついた。
私だけ西部育ちで、完全にアウェイじゃないかとベルに泣きついたが、
行ったことがない土地の話には興味があるので、結局のところ私もみんなの話に食いついたのだった。




