3-5 鏡写しの星と鐘
「ステラ・ベイカーです...ええ?」
私の目の間にいる吟遊詩人...格好はさっきと違い、牧場で働いているという感じだが、
彼女...ベル・ロスヒハトは、顔も、髪の色も、背丈さえ私そっくりだった。
「気のせい...だよね、それとも夢?」
見れば見るほど見覚えがあって、妙な気分だった。
「気のせいでも夢でもないわ。
私も驚いた。最初はあなたが私をからかってるのかと思った」
アズアズが言う。
「ふふふ、世界中探したら3人は同じ顔の人がいるって言いますけど、本当に会ったのは初めて!」
「私もです!」
私とベルは気づいたら両手で握手していた。
「本当にそっくりね...でも無事でよかった。卒業式の日に姿を消して以来、どこ行ってたの?」
「ああ、それはいろいろあって...
って、私のこと心配してくれてたの?」
「え、別に?あなたのことだから、急ぐあまり卒業式を忘れてもう出発したんだってわかってたわ。」
「デレクタさん、私と初めて会ったとき、私をステラさんと間違えて—」
「あああああ!!それは言わない約束にしたわよね!?」
「え?何?どうしたの?」
私はニヤニヤしながら聞いた。
「なんでもないから!そのいやらしい顔をやめなさい!」
「まあ、約束なら仕方ないか...」
「それで、あの日何があったの?」
「それは—」
私は、拐われ処刑されそうになったこと、カイルと共にそこを脱出し、今は冒険家ギルドとして旅をしていることを話した。
「—というわけ。」
「そんなことが...」
「指名手配のことはポルテナから聞いていたけど、そういうことだったのね...」
「信じてくれるの?」
「それが本当でも、嘘だったとしても、どっちだって私は困らないから。
それだけのことよ」
「かっこいいです!メモメモ...」
ベルは目を輝かせてそれを書き留めた。
少ししてからアズアズはハッとして「別にあなたの話が嘘だって言ってるわけじゃ...!」と慌てて付け足した。
「ぅわ...傷つぃた...ステラちゃんもぅ立ち直れなぃ」
しゃがんだ私がそう言って部屋の隅をなぞると、アズアズはさらに慌てた様子で私を励ましてくれた。
私はそれを少し楽しんでから、冗談だと言った。
「...ところで『ポルテナから聞いた』とか、ベルに会いにきたのが『ポルテナ経由』って言ってたけど、
どうやってポルテナと連絡を取ったの?」
「え?...ああ、そうだった。あなた、卒業式いなかったものね」
そう言うと、アズアズは手鏡を出した。
その手鏡は、ポルテナがいつもテレポートに使っていた小さな手鏡に似ていた。
「それ、ポルテナの...?!」
「本人が持ってるものとはちょっと違うけどね。卒業式に彼女にもらったの。卒業生はみんな。
...あなたを除いて。」
「ええ、そうだったの...」
「私も持ってますよ、厳密には、私がではなく牧場が、ですが。
ミルクをポルテナさん経由で送っていたので。」
そうだった。アイスクリームを作るためのロスヒハト牧場のミルクは、ポルテナが輸送していたんだった。
「これ(手鏡)を通して卒業制作発表会も見てました!
ステラちゃんとボルカニアさんの魔法の舞台、素晴らしかったです!」
「ありがとう、私もさっきふもとで聞いたベルの歌、すごく良かったって思ったよ!」
「ありがとう!」
ベルは言った。
「ところでアズアズがここに来たの、相談って言ってたけど、どんな相談を?
いや、言えない内容だったらいいんだけど...」
「いえ、大丈夫です!教えます!
突然お得意様との連絡が途絶えて、ミルクを取引できなくなってしまったんです....
それで私がミルクを腐らせないように定期的に山を降りて、ふもとの町でああやって売ってるんです!」
「そうだったんだ...でも、なんか嬉しそうだけど」
ベルはなぜだか笑っていた。
「歌うのが好きなので!
それで、今の吟遊詩人の雰囲気も好きだけど、挑戦したいことがあって...」
「挑戦したいこと?」
「私、"アイドル"になろうと思うんです!」




