2-E 新しい服と次の旅
お祭りの翌日。
ニエの鍛冶場に向かった。
「これ—」
まず、ニエは私に壊れたはずのルカのキューブを渡した。
完全に修復されていた。
「すごい...ありがとう!」
それからコマチさんに押されるように出来上がった服を渡され、着替えた。
「おお〜、やっぱり似合ってるね」
コマチさんが言った。
蜘蛛の糸を思わせる白いラインが入った旅着が、黒いケープマントと合っていた。
「ありがとうございます!コマチさんに作っていただいてよかったです!」
「いやいや、糸を持ってきてくれたおかげで作れたからね、お互い様だね」
「カイルもいい感じだな、さすが師匠だ。」
ニエが言った。
カイルの服も、元から彼が着ていたものをベースに、こちらにも白いラインが入っていた。
というか、そもそも前に着ていたのを作ったのもコマチさんだった。
「そんなに雰囲気をガラッと変えたわけじゃないが、一番はそこじゃないよね。
大蜘蛛の糸で作ってるから燃えないし、前とは丈夫さが違う。」
コマチさんが言った。
「ありがとうございます!
これからは火の中だろうと恐れず飛び込めます!」
「ばかが、服が燃えなくてもあんたが燃えちまうだろうよ!」
それを聞いてカイルは笑ったが、コマチさんは真剣なトーンで言った。
「いいかい、命を軽はずんでいい時なんかありゃしない。
それが平気でできるのは、これからすぐに死ぬからその後のことなんかどうでもいいと思ってる人間だけだ。
勇者の剣を探し出してローネを越えるんだろう、テラちゃんと冒険家ギルドを作るんだろう
あんたはこれからも生き続けるってことなんだから、無茶な真似はするんじゃないよ!」
「はいぃ...」
カイルは歯切れが悪い感じで返事をした。
ふと洞窟でのことを思い出して不安になった。
カイルは洞窟で大蜘蛛に殺されようとしてた...
...いや、そんなはずはない。
カイルはあんなところで死んでいいなんて思ってないはずだ。
だって彼は、私がローネを越えて、更なる世界を冒険するのを見届けると言った。
それまでは絶対に死なない。そう信じている。
...じゃあ、それが終わったら?
私がこの世界を冒険しきって、ローネの先に行ったら、その後は?
「...」
「ステラ?」
「いや、ちょっと悩み事。...でも、今解決した。」
彼が死のうが、私には関係ない。私の目的は自由に冒険することなんだから。
彼と一緒に冒険するよりもきっと、一人の方が身軽だし...。
「無茶しなきゃいけない時、危険な場面に遭遇した時、やりたい、やらなくちゃって思ったら絶対にやる。
でも、自分が犠牲になったり困ったりしないようにもする。
目的も、安全も、どっちもとる。
それが私の、...」
私の...なんだ。なんだろう...?
「私....の........生きる道?いや、...すべ...美学...?違うな...」
「わ、ステラさん、目が、光ってる!?」
ニエが驚いた。
「えっ!」
手をかざすと本当に光っていた。
何度が瞬きをするとそれは治った。
「か、か、か...」
ニエが言った。
「かっけええ...!!!!」
「えっ、何」
「いいな!俺も目光らせたい!ステラさん!!どうやってやるんですか!?」
ニエはキラキラした目をして私の方に飛びついてきた。
しかしカイルがニエの顔を押さえて、間に入った。
「え、ええと、考え事してたら...かな?
今まで魔法を使った時に光るって思ってたんだけど」
「考え事...考え事ならいつもしてるけどなあ...鉱石のこと...武器のこと...」
「それじゃあ次の町に向かいます。」
ぶつぶつと話し始めるニエを放っておいて、カイルは言った。
「うむ、行ってらっしゃい」
コマチさんが返事をした。
「ニエ」
「なんだ」
「また来年な」
「...ああ!」
ニエはそう言って、カイルの差し出した拳にニエの拳を突き合わせた。
カイルはそのまま出て行った。
私は鍛冶場を出る前に、振り返った。
「行ってきます!」
コマチさんは少し黙ってから、わずかに微笑んで言った。
「...行ってらっしゃい!」
ニエも続けて「行ってらっしゃい」と言った。
「行ってきます!」
こうして私とカイルはエルツの町を出て、次なる場所へと出発した。
「カイル」
「何だ?」
「無茶でもやる、でも自己犠牲はしないようにする、でも絶対やる。
さっきのは、君に学んだことだよ」
「そうか」
「そうか。じゃないよ!
目的も命もどっちも大事にする。絶対に死なないって約束して、ギルドマスター命令だよ」
「何だ...生き物なんだし、いつかは死ぬだろ」
「そういうことじゃない!はあ...」
—第2章『大蜘蛛の遺跡』完
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