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パローナツ、冒険なんてもう遅い異世界。~冒険家を夢見る記憶喪失の魔女と獣は、冒険を諦めた現代異世界を夢と冒険で再点火する。~  作者: 紅茶ごくごく星人
第2章 大蜘蛛の遺跡

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2-14 兎の髪と雨宿り

洞窟から出ると、パラパラと雨が降っていた。

カイルは「急いで町に戻ろう」と言ったが、すぐに雨が土砂降りになった。


「待って」

私は彼の手を握って引き留めた。

「何?」 

雨で音がかき消されて、お互いに何も聞こえなかった。


私は黙って彼の手を引いて洞窟に戻った。


...


私もカイルも頭からつま先まで水浸しになっていた。

脱げる服は脱いで水を絞る。


それから熱風を出して、ぼわっと乾かした。

それから髪もふわりと乾かした。


「よし」

これで雨でびしょ濡れになったのが嘘だったみたいに元どおりになった。

いや、元どおりは言い過ぎた。

下半身は脱いで絞っていないので生乾きだし、しわもついてしまっていた。


「おお、やっぱりすごいな」

その様子を見ていたカイルが呟く。


「ふふ、それほどでも—」

そう言いながら見ると、

カイルもある程度は服を絞っていたが、それでもまだ水で濡れていた。


「乾かすから脱いで」


「ああ、ありがとう」

カイルは上着から水をまた絞ってから、私に手渡した。


「帽子も脱いで」

そう言うとカイルは少し迷ったが、渋々帽子を脱いで渡した。

思い出してみると、彼が帽子を脱いでいるところを見たことがなかった。


「あと下も。」


「下ぁ!?」


「ちがっ、そうじゃなくて...上着の下、つまり上半身を全部脱げってこと!」


「ふっ、ああ...」

カイルは笑って服を脱いだ。


「何笑ってんだよ、全く...」


そう言いながら彼の背中を見る。

腕に穴が空いて血が滴っていた。


私はホワイトシャツを脱いで、蜘蛛糸を引きちぎった時から持っていた彼の武器でその袖を切る。


「何やって—」

「いや、君の方が何やってんだよ。こんな傷そのままにして、死ぬ気......だったのか」

途中で彼が蜘蛛に向かって言っていたことを思い出した。


それから数秒、雨の降る音だけが響いた。

私は彼の腕に力一杯巻いて止血した。


「...でも君が助けてくれたじゃない」

彼が言った。


「ならなんで、すぐ止血しなかったの」


「...すぐに治るから」


「治らないよ!

私、カイルのこと馬鹿っぽいけど実は賢いって思ってたんだけど、やっぱり馬鹿だったんだね」


「...まあ」

カイルは微笑んだ。


私はふと、彼の髪を見た。実はずっと気になっていた。

ウサギの耳みたいに束ねられた二色の髪が、どうなっているのか。

帽子を外した彼の髪は、長くて、

焦げ茶色の髪と真っ白な髪が、互いに打ち消し合うことなく綺麗に混ざり合っていた。


「ねえ、カイル」


「何?」


「髪の毛触っていいかな...乾かす、から」


「...いいよ」


私はそれに触れた。

水で湿って、ぼさぼさだ。


指先で挟むようにして熱風を当てる。

根元から、毛先に向かって指を沿わせる。


「髪、切らないの?」


「切っても、伸びるから」


「ずぼらだね」


「切らなかったら伸びないぞ」


「いや、伸びるよ。

私もそう思って切らずにいたことがあったけど、ローネ小説に出てくる"モフモフモップイヌ"みたいになったよ」


「モフモフモップイヌ...!本当にいろんなローネ小説に出てくるよな、あいつ」

彼は笑って言った。


「うん...!」

私もつられて笑ってしまった。


しかしカイルは続けた。

「いや、俺は本当に伸びないんだ。

それとは反対に、切った時は、眠ったら最後目が覚めるとまた生えてる。


だから切ってない。

それに切ったら痛いし、血が出るんだよな」


「意味わかんない、なにそれ」


「本当なにそれって話だよな、俺もそう思う」


「さっきの蜘蛛の脚みたいだね」


「確かに。あの蜘蛛の脚を研究したら、髪を切らなくなくて済むかも」


「ごめん、蜘蛛の脚燃やしちゃった」


「...」


「...」


私もカイルもぷっと吹き出した。

笑い声が洞窟に響いて、この時は雨の音も聞こえなかった。


「晴れたら蜘蛛の糸持って帰らないとな」


「でもあの量だと、分けて持って帰った方がいいかもね」


「そうだな」


カイルの髪を乾かし終えた。

程よく湿気を残し、ふわりとした仕上がりにできた。


「カイルの髪、綺麗だからこのまま伸ばしたままでもいいよ...

でも、短い髪も見たいかな、そのうちでいいけど」


「...約束はできないけど、

髪を切っても血が出なくなって、一晩寝るだけで伸びたりもしなくなったら、いつかそうするよ」


「うん」


それから雨が上がって、私とカイルは蜘蛛の糸を持てるだけ持ってエルツの町に帰った。

鉱石を持ち帰らなかったからニエは残念そうにしていたけど、

それは明日また洞窟に訪れ、掘ることにした。

洞窟の奥深くにあるっていう遺跡もまだ見ていないし、とても楽しみだ。

^ivi^[ネコニス'sTips]

モフモフモップイヌとは...読んで字の如く、モフモフのワンちゃんのことです...!

モップみたいな髪で、顔が隠れているのです...!

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