間話 呪い
ステラとカイルが洞窟に向かった後のコマチの話
バリトノ・コマチは服のデザインをしていた。
カイルとステラが洞窟に向かう直前の、彼らとの会話を思い出す。
〜
「2人に私から一つ、お願いしてもいいかな」
「何ですか?」
ステラが言った。
「その大蜘蛛、倒したら糸を持ち帰ってくれないかい?」
「糸...ですか?」
カイルが聞いた。
「それで服を作れないかって試してみたいんだよ
その報酬って言ったらなんだけど、テラちゃんの服、新しく作っていいかしら?
その服はテラちゃんのことを知らないからオーソドックスな感じで仕立てたんだけど、
今テラちゃんと実際に会ってみて、あなたに合う服を新しく作ってみたくなっちゃった」
「わかりました。ぜひお願いします!
でも、今の格好も気に入っていて...本当にありがとうございます!」
「そりゃ嬉しいね...
でも、その黒いケープマント...
あなたが特に気に入っているのはそれじゃないかい?」
「えっ...ああ、まあ、はい!」
テラちゃんはなぜか少し慌てた様子だったが、
そのケープマントに見覚えがあったのでなんとなく察しがついた。
「じゃあ、それに似合う服を作らせてもらうよ」
「...ありがとうございます!」
「あとは動きやすいのがいいよね、それでいてゆったりしていて...
そして極め付けは...」
私はテラちゃんと目を合わせた。
「「旅してそうな服!」」
私とテラちゃんは同時に言った。
「やっぱりこれでしょう、間違いない」
「何か打ち合わせでもしてたのか...?」
エー坊が言った。
「まあ、最初に会ったときにね。
見た目の良さと機能性、両方揃って初めて完成するって話をしてたんだ」
それから私はカイルの方を向いて言った。
「それとルーくん、あんたの服も新調させてもらうよ?
手袋こんなボロボロにして、次なくなったらあんたの手が溶けてるだろう」
「すみません、ありがとうございます」
「...それじゃあ、行ってきます!」
テラちゃんが言った。
2人は鍛冶場を出た。
〜
「なあエー坊」
「なんですか、師匠」
「私のこと"レディー・コマチ"って呼んでみてくれないかい?」
「え...はい、わかりました」
ニエはごほんと咳払いをして、言い始めた。しかし—
「れでい...れどい...れどに...あ、あれ?おかしいな」
「...」
「れどり...す、すみません、ふざけてる訳じゃなくて!
レデ...!」
「もういいよ、やめな」
エー坊はしょんぼりした顔をした。
「すまない、あんたは悪くないから、そんな顔をしないでおくれ」
「...」
「いつもこうなんだ。
私は幼い頃、服を作るって意識すらない頃に
ある世界的なスターを見て、私も"レディー・コマチ"って呼ばれたいって、思ったんだ。
それから服を作っていく中で、服を作った相手が喜んでくれたときにたびたび
『レディー・コマチって呼んでもいいんだよ』って言ってたんだけど、
誰ひとりレディー・コマチと言うことはできなかった。
呼んでくれなかったんじゃない。
さっきのテラちゃんや今のあんたみたいに、"言えなかった"んだ」
「...」
「私は服屋として今までに本当に何人もの人を嬉しい気持ちにさせることができた。とても幸せだ。
それにあんたみたいな後継者を育てることもできている。
はっきりと"夢が叶った"と言える。
でも、生まれて初めて私が持った『レディー・コマチって呼ばれたい』という夢だけは
なぜか叶わないんだ...。
これは死ぬはずだった者がまたチャンスを与えられたが故の代償...
ある種の"呪い"かもしれないね。」
「死ぬはずだった?
師匠、前に『今まで生きてきて一度も風邪を引いたことがない』って言ってらっしゃったのは
嘘だったんですか?」
「ははは、それ信じてくれてたんだね。
もちろんそれは嘘じゃないよ。
私はこの世界に生まれ落ちてから、ずっと健康さ」




