2-10 大蜘蛛の遺跡へ
私はぐっすり眠っていた。
カイルに起こされ、急いで町の入り口に来た。
そこでニエとコマチさんと合流し、ニエの鍛冶場にやってきていた。
「おお、すごい...」
鉄と煙の匂いがするその本格的な鍛冶場に、私は感動した。
「なんてったって彼の父親はこの町の町長だからね、鍛冶場一つ立てるくらいどうってことないのよ」
「この鍛冶場を実際に組み立て作ったのはニエです。彼をそんなふうに言うのはやめてください」
「ごめんごめん」
するとちょうどニエが、
何かが何枚も並べて入れられた籠を持ってきた。
そこから見覚えのある刃物を取り出して、カイルに渡した。
「ありがとう」
「万が一のことを考えてまた作っておいたけど、本当になくすとはな」
ニエはカイルの腰のホルダーを見て言った。
最初はこの武器がもっとたくさんあったけど、それがすっかりなくなっているのが一目で分かったのだろう。
私が最初に見た時点からでも、溶けたり砕けたりして数がかなり減っている。
「待って、彼はなくしたわけじゃ—」
「ああ、すまない」
そう言ってカイルは袋を取り出し、鍛冶師に渡した。
鍛冶師は受け取った袋の中をみた。
「うわ、何やったらこんな壊れるんだよ...」
「西司教に投げたら溶けた。あと鎧にぶつかって割れた。」
「なんだそりゃ...まあいいか。
お前がきたおかげでまたこれより頑丈なのが作れそうだしな」
「ああ、洞窟か。今ならステラもいるし、あの遺跡にも行けるかもだし」
「遺跡!?遺跡があるの!?」
するとニエが言った。
「町をでてすぐの森に洞窟がある。
俺とカイルは毎年そこでいい感じの鉱石を見つけて作ってたんだが
その奥の奥にいかにも古代遺跡って感じの人工的な壁があるんだ」
「へえ...」
すごくワクワクする。絶対行こう。
「遺跡って聞く前と後のテンションがおかしいんだよな...最初お前もこんなだったぞ、カイル。」
カイルは部屋の隅を見て何か考えていた。
「カイル?」
「ニエ、今年の壁塗り祭ってなんでできなかったんだ?」
「それ、私も気になってた。昨日遊んだ子から聞いたんだけど、なんでできなかったの?」
「...ああ、それは洞窟であの"蜘蛛"が出たからだ。」
「蜘蛛?」
続けてニエは話した。
「壁塗り祭で使う塗料は、森で取れる木の実と、さっき話した洞窟の鉱石を混ぜ合わせて作られる。
塗料は毎年決まった日に必要な量だけを一斉に採集して作るんだが、そこにあの大蜘蛛が現れた。」
「あの?」
「俺とニエは何度もその大蜘蛛に遭遇してる。
でも塗料を採るのにそんな深くまで行ったのか?」
カイルはニエに聞いた。
「いや、年々塗料は減って奥の鉱脈に進んではいるんだが、それもまだまだ浅い場所で、
例年通りならヤツと遭遇するはずがない」
するとカイルが聞いた。
「...失礼を承知で聞くけど、
あの蜘蛛がいるってのは嘘じゃないのか?」
「いや、嘘じゃない。俺も実際に見て確かめた。」
「じゃあ別の個体か...?」
「あの!」
カイルとニエ、それに何やら布を触っていたコマチさんもこちらを向いた。
「私、昨日遊んだ子と約束したから。壁塗り祭をやるって。
だから蜘蛛、倒してくるよ」
...
「...いや、やり直していいかな。」
「何?何ですか?」
ニエが困惑した。
私は深呼吸した。
「冒険家ギルド、最初のクエストだね!
カイル・リギモル、ギルドマスターとして任務を与える!
私と共に、洞窟に潜む大蜘蛛を駆除せよ!」
「...承知しました!」
「本当に2人とも"変なヤツ"だな...頼もしいくらいに。」
ニエは苦笑いした。
「でも本当に大丈...いや、いらない心配か。
きっとステラさんはそれだけの実力があるんだろうな」
「もちろん!なんてったって私は"星眼の魔女ステラ"なんだから。」
...
しばし沈黙が走ったが、コマチさんが少し遠くから言った。
「テラちゃん、例の壊れたっていうキューブだけど、
見せてもらえるかな」
「...?はい」
私は袋を取り出して、そこから砕けたルカのキューブの破片を手にのせた。
「うーん...エー坊、直せるよね?」
「はい。
ステラさん、これって腕輪...ですよね?多分」
「...はい!」
結構粉々だけど、ぱっと見て分かったみたいだ。
流石だ。
「すごいな、これで腕輪ってわかるんだ」
カイルが言った。
「...おいおい俺と会って何年だよ?
俺はお前が思ってるよりすごい奴だったみたいだな、もっと褒めてもいいぞ」
ニエは隠しきれない笑みを漏らして言った。
「なんか一歩引いた位置にいますよって感じでいたけど、
ニエさんも私たちと同じで、"変なヤツ"だよね」
「ああ、ニエは最初に会った時からとびっきり"変なヤツ"だよ」
カイルはにかっと笑った。




