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パローナツ、冒険なんてもう遅い異世界。~冒険家を夢見る記憶喪失の魔女と獣は、冒険を諦めた現代異世界を夢と冒険で再点火する。~  作者: 紅茶ごくごく星人
第2章 大蜘蛛の遺跡

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2-9 ひとりごとスープディナー②

「私、最初に処刑されそうになった時、

観客達を見て、ちょっと、本当に本当にちょっとだけだけどね?

人間不信になりそうだった。

だから、どうやって君がここまで生きてきたか知りたい」


「それは、ニエのおかげだ。

最初にニエが俺に頼んでくれたから、他の町の人たちも俺にいろいろ頼んでくれるようになった。


他の町でも、なんだかんだ頼んでくれる人がいて、

そういう人が一人もいなくて全員が食べ残しとかゴミを投げつけてこき使ってくる、なんて町はなかった。


結局人はいいことをしたいんだよ。

それができない奴はただ、そいつが自分には何もできないって思い込んでるだけだ。」


スープを飲むとまだ熱かったけど、そのまま飲み干した。


「嫌なことがあったら嫌な気持ちのまんま。

この世は不平等だ。かわいそうな自分。

ならもういっそ何もせずに、ただ人を見下して何かした気になろう。

そう思ってしまう。」


私は器を彼に渡す。


「人は、みんな違う。

顔も名前も背丈も性格も出身地も...たまに同じ人もいるし、違う人もいる。


だから得意なこと、不得意なこと、いろいろある。

なんでも得意でできちゃう人も、何もかもダメダメでできない人もいる。」


彼は受け取った器にスープのおかわりを注いで、また私に渡した。


「でも世界だけは、俺たちが住んでるこの世界だけは、みんな同じだ。


どれだけ失敗しても、自分の目的を達成させるために何度だって挑戦して、

失敗して、なんで失敗したか原因を見つけ出して、方法を考えて、

またやって、失敗して、また原因を見つけて、またやって、また失敗して、またやって—


そしたら必ずできる。世界はそういうふうにできている。

人より劣ってようが人より運が悪かろうが、この世界だけはいつだって同じなんだから。


...それさえ分かったら、

わざわざ人を憎んだり、罵ったり、そういう自分の時間を無駄にするようなことはしなくなるよな...」

彼はそう言って、自身が飲むために注いだスープを眺めていた。


私はスープをすすって、そしてその場に置いた。


「俺は自分以外の誰かをわざわざ憎むのをやめたから、ここまで生きてこられたんだと思う。

人に感謝することは嬉しいし意味あることだけど、憎むことは時間の無駄だからな。


もちろん、何か困ったことや問題があったらそれは解決すべきで...

でも憎む気持ち自体は自分を無駄に傷つけるだけだ。」


カイルは少し間を置いてから、微笑んでさっきまでより少し元気な言い方をした。


「そんな時大事な心構えがある。

それは—


「目的を決めたらあとはやるだけだ」

なんだか話を聞いていて、処刑場で私自身がそう言ったことを思い出していた。

それを私はつい口に出して言った。


不思議な沈黙が走る。


「...かな?」


「...ああ」


「...え、合ってた?」


「君が言ったことだ。あの処刑場で」


「聞こえてたの?あの時結構独り言っぽく言ったんだけど...」


「...まあ」


「そう、なんだ」


そう聞くと、なんだかわからないけど急に恥ずかしくなってきた。

別に恥ずかしいことでもないのに。


つい目を指で覆ってしまった。


そして勢いで言った。

「どんな地獄耳だ、しかも覚えてたんだ、めちゃくちゃ気持ち悪いじゃん

なんで、覚えてたの?」


「...同調圧力」

すると彼は答えた。


「同調...」


「違う、間違えた。

その...そういうふうに思ってる人がいるんだって知って嬉しかったから、それだけ。」


彼は私の方を向いて言ったけど、私は何故だかすぐに目を逸らしてしまった。


「そう、そっか...ソウデスカ...」

なんかこのまま彼と平常心で話せる気がしなくて、

私は急いでスープを飲み干して、そのまま何も言わずに眠った。


...


そうだよな、私って元々そういう考え方だったよな。

私が彼の言ったことを中途半端に真似してしまったと勘違いしていたけれど、

そうじゃなかったと知れてちょっとだけ安心した。


それと、何だかよくわからないけど嬉しかった。

恥ずかしいのか嬉しいのかなんなのか、よくわからない。


でもまた明日になったら、何事もなかったように話せてるはずだ。

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