2-8 ひとりごとスープディナー①
『うん。何かうまくいかないことがあっても、
なんでうまくいかなかったのか、なんでできなかったのか。
その原因を調べて、それをなくせば、どんなことだってできるようになる。
って、そこのカイルが言ってた。』
...さっき私自身が言った事を思い出していた。
『ムリダナの処刑を見てた観客について聞いた時、
ゴーシュとの戦いで素手で殴って魔崩の鎧を壊そうとしてた時、
今まで周りくどい言い方をしてたけど、つまりはこういうことだよね、カイル。』
目の前のカイルの後ろ姿は、ぴくりとも動かなかった。
『一度上手くいかなくても、なんで上手くいかなかったのかじっくり考えてから、またやればいい。
そういうことだよね、カイル...カイル?』
私が彼の肩を叩く。
私が少しぐいっとすると、彼は振り向いた。
すると茶色混じりの白い毛の兎が、おどろおどろしい顔でこっちを睨み付けていた。
「...テラ...ステラ!」
はっ!
「私、何してた?」
「目がすごくうつろだった。」
「ああ...」
「...あと......なんか光ってた。」
ちょっと言い淀んでからそう伝えられた。
「光ってた?ああ、私魔法を使う時こうなるんだよね
...ってことは寝ぼけてなんかその辺燃やしたりとかしてないよね!?」
「大丈夫。してない」
「そっか、じゃあ良かった...本当にしてない?」
「実はしてた」
「え」
「めちゃくちゃ火飛んでた...嘘、本当はしてない」
「本当に?」
「本当。嘘。本当。本当。嘘。本当」
「本当?」
「本当」
「嘘?」
「う......本当」
「ふっふふ」
私もカイルも笑った。
「ところで、たくさんもらったね」
「ああ」
頼まれごとのお礼というか賃金として食材をたくさんもらっていた。
他には手紙とかもあった。
その一つを手に取ると、
ありがとうと書かれていて、私とカイルの似顔絵も描かれていた。
「ありがたいな」
「ぐう...」
!?
カイルといた熊、ベアが来たのかと思ったが、私のお腹の音だった。
「さっき氷魔法使ってたろ、やけに子供たちが集まってたの見たぞ」
「ああ、うん...そうそう、私ついに大きな氷の塊を作れたんだよ、これくらいの」
私は大袈裟にジェスチャーで伝える。
「それはすごいな」
そう言って彼はもらった野菜や山菜、キノコや以前から彼が常備している例の干し肉を入れた
豪華なスープをかき混ぜていた。
「魔法もそうなんだろうけど、考え事して何か作ったりすると...めちゃくちゃお腹すくよな、やっぱり」
「うん、氷魔法はなんていうか集中力をかなり使うというか、本当に前からこんな感じで、
鼻血は出るしお腹はめちゃくちゃすくし、大変なんだ。
もちろん他の魔法でもお腹はすくんだけど、
火をつけたり風を吹かせたり雷を落としたり、その辺は今は慣れっこ。
でも氷魔法だけはいまだにうまくいかなくて・」
「...」
カイルはスープをかき混ぜていた。
「でも魔法って本当なら1種類しか使えないしさ。
これも天才ゆえの苦悩ってやつかな...きらっ」
私は片目をパチりと閉じて見せた。
「...」
彼は変わらず、黙ってスープをかき混ぜていた。
「きらっ...」
片目を何度もぱちぱちして見せたが、反応がなかった。
「いやツッコんでよ...」
「ああ、ごめん」
彼はこちらにやっと気がついた。
カイルも疲れてるのかな...と思った。
「他の町でも今日みたいに頼み事を受けて、お礼をもらって...みたいなことしてるの?」
「ああ、どこの町でもこうしてる。でも最初にやったのはこの町。
昔は魔物を狩るのも下手くそだったから、町に滞在してる時はこうやってもらった食べ物で生活してた。」
町に滞在、と言っても私たちは町から少し離れた場所にある、何もない丘にいた。
「最初は、というか今回もだけど、"食べ物をください"とは言ってないんだ
なんかなんでもいいから一つもらったりする感じにしてた」
「へえ」
そしたら食べ残しやゴミを渡して...あと、うんこを渡してきた人もいたな」
彼は笑って話した。
「それはひどい、渡せるものがないのに頼むなよ」
「その人は困ってたんだから仕方ないじゃない」
「でも...」
「そういう人がいても
他に食べ物くれる人がいたから、困らないようにはなってたな。
人助けをして自分が困ったら元も子もないし。
自己犠牲みたいなおバカちゃんなことはしないって、そこはちゃんとわかってた。
でも、他の人がみんなこうやってまともな食材をくれてたら、
自分だけうんこを渡したりはしてられなくなる。」
畑があったら肥料になったんだけどな、と彼は言った。
「同調圧力?」
「同調圧力、そうだね、確かに。」
彼はふふっと笑った。
「だけどその後、渡したら損するからやーめたって、そのまま困ったまま生活するか、
ちゃんと自分の食べ物もあげる食べ物も、両方用意できるようになろうって思えるかは人それぞれだ」
カイルは私に煮込みの入った器を渡した。
「それに食べ物じゃなくても、手紙とか絵とか、なんならその辺で拾った石をくれてる子もいるし。」
「そうだね」
私はふーっと息を吹きかけて、野菜などの具材がごろごろと入ったスープをさました。




