2-5 カイル何でもする
「おお、お前さんカイルじゃろ、よう来たのお」
「ダンカンさんどうもお久しぶりです」
「おおカイルだ、久しぶりね」
「お久しぶりですエリーゼさん」
町を歩いていると、カイルが若者からお年寄りまでいろんな人にやたら挨拶される。
「流石の人気者だな」
ニエが言う。
「本当に全員と知り合いだったんだ」
カイルは小さな子供に手を振り返しながら「もちろん」と言った。
「まああんなおかしなことしてりゃ嫌でもみんな知るよなあ」
「おかしなこと?」
すると何やら大きな看板を持った子供がやってきて、カイルにそれを渡した。
「カイル、またこれやって」
「よし、わかった」
そう言うと、しゃがんでいたカイルは立ち上がり、
受け取った看板を上に掲げて言った。
「カイルのなんでも屋でーーーす!!!!なんでもしまーーーす!!!!
困りごと頼み事ぜひお任せくださーーーい!!!!」
すると大勢の人が集まってきた。
カイルは彼らの対応をしつつ言った。
「ごめん!今日は行けそうにない!」
「じゃあ俺は鍛冶場行ってるわ」
「私も。弟子がどれだけ成長したか見たいから」
「ステラも2人についていって」
「いや、いい!ここに残る!」
彼はそのまま、集まってきた人たちに順番に並んでもらい、
それぞれの頼みごとを全てメモした。
「1日で終わらせる。ついてこれる?」
「もちろん!」
お店の手伝いから子供との遊びまで、その内容は様々だった。
中には依頼主の絵を描いてくれというのもあった。
カイルのそれはなんというか...画伯だった。
私は絵に自信があり、実際かなりうまく描けたつもりだ。
その人はどちらの絵も喜んで受け取ったが、
どちらかというとカイルの絵を絶賛していた。
ーーー
町の子供たちに囲まれて、私は目の前の1人の女の子の手のひらに集中していた。
宙に浮かぶ僅かな水をそこに集め、凝固する。
次第にそれは氷の結晶となり、彼女の手のひらに乗った。
小さい菱形の氷塊。
「わあ...!」
小さいと言っても、魔法学院を卒業した時点では粉雪を発生させるしかできなかったのに、
我ながらすごい進歩だ。
「きれい!」
「すげー!」
周りの子供たちもそれを見てわいわいしている。
「ありがとう!」
「どういたしまして」
学園に入って活躍するタイプのローネ小説の主人公のことを『幼い子供にいい歳した大人が混じっていきがってる』なんて揶揄する言説は評論書で飽きるほど見たけれど、
相手が小さな子供だろうと大人だろうと、人を喜ばせるのはまあ、悪いものではないかな...と思った。
氷の結晶を持って、女の子はそのまま他の場所にいた子たちのところへ走っていった。
集まっていた子たちも何人か、そちらについて行った。
それを見送りながら手を振った。
つい「ふふ」と笑みが溢れた。
男の子の1人がふと私の方を振り返った。
すると何かに気づいて、言った。
「うわ、鼻血でてる!エロだー!」
「ちょっと、ステラさんになんてこというの!?」
男の子の隣にいた気の強そうな女の子が言った。
私がハンカチで鼻を拭うと、そこには血がついていた。
「あ、本当だ」
私はそのままハンカチで鼻血を拭った。
「教えてくれてありがとね」
私が笑いかけると、男の子は顔を赤くして目を逸らした。
そしてそのまま走って—転んだ。
だけど男の子はすぐに起き上がって逃げるように走って行った。
顔が赤かったのは風邪だろうか?心配だ。
この町は寒いし、私も体調管理に気をつけよう。




