2-4 鍛冶師見習いニエ・ギルテ
声の方を見ると、男がカイルの首を腕で組んでいた。
「や、やめろ」
彼は苦しそうに男の腕をパンパン叩いていた。
暴漢かと思ってつい火の玉を出しかけたが、コマチさんに止められた。
「こいつが例の私の弟子だよ。
おいエー坊!その辺にしとき—」
コマチさんがそう言いかけたところでカイルが上に飛んで、エー坊なる青年の顎に頭突きが炸裂した。
「うっ、くそ、いってぇ...!」
そのままエー坊は倒れ込み、顎を抑えて転がり回った。
それを見てカイルは言った。
「ニエ、久しぶりだな」
エー坊は差し伸ばされた手を掴み、起き上がった。
「ああ、久しぶり、カイル。予定より遅かったじゃねえか。
またどこかの遺跡で面白い鉱石でも見つけてきたか?」
「いや、鉱石は特に」
「なんだあ...。
師匠もご無沙汰しております。お元気そうで何よりです。」
「うむ。あんたこそ随分元気そうで何よりだよ。」
「ところでそちらは...」
青年は私の方を見た。
「私は"星眼の魔女"ステラです。カイルと冒険してます。」
「ああ、どうも。...せい...まじょ...?」
「その"星眼の魔女"って名乗るのもうやめようか」
「ええ!?冒険家ギルドの人員集めのために
これから色々と広めて行かなきゃいけないんだから、絶対いるよ!
私の"くーる"で"きゃっちー"なこの二つ名は絶対流行らせなきゃ!」
「いや、流行らない」
「流行る!」
「はやらない!」
「はやる!」
「「はや—」」
「えっ、ちょっと待って...カイルと冒険?
遅くなったのって、え?
何、カイルの彼女?」
「違いますが」
私がそう答えると、
コマチさんは最初に彼がカイルにしたようにエー坊の首を腕で組んだ。
「全くあんたデリカシーがないね」
「う、やめてください...」
苦しそうにするエー坊からコマチさんは腕を解いた。
青年はぜえはあと息を切らしながら言った。
「...でも、冒険者ギルドの仲間ができてよかったなカイル」
「いや、冒険家ギルドだ。冒険者ギルドはやめた。」
「...?そうか...。」
息を整えて、エー坊は私に言った。
「失礼しました。
はじめまして、俺はニエ・ギルテって言います。鍛冶やってます。
カイルのこと、どうかよろしくお願いします。」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします!」
しかしあることに気づいた。
「鍛冶で師匠?コマチさんは服屋じゃ...」
「私は身につけるものはなんだって作るのさ。
それと、私のことはレディー・コマチと呼んでいいんですよ」
「はい、レジー...レドゥー...レデ...............」
不思議と言いづらくて頭を抱えた。
「コマチさん!」
もう仕方なくコマチさんと呼ぶことにした。
「ううん...まあ、コマチさんって呼び方もさっきからテラちゃんに何回か言われて、
慣れてきたからいいけどねえ...」
それから私たちは鍛冶場に行くことになった。




