2-3 エルツの町
そのまま歩いていると、霧が晴れてきた。
町の関門があった。
そこには門番がいて、何やら後ろの箱からごそごそと何か取り出した。
「名前と入町理由を記入してください。」
そう言って門番は私たちに紙を渡してきた。
「名前...入町理由...」
私は指名手配されていたことを思い出した。
「心配はいらない。正直に書きなさいな。」
コマチさんがそう言う。
カイルの方を向くと、彼は片手で丸を作って、それで良いと合図した。
名前
ステラ・ベイカー
入町理由
...
入町理由はどうしようかと思った。
東部に行くための中継地点?でもコマチさんともう会ってしまったし...
しかし入町理由の欄の下に小さく『観光の場合は○を』と書かれていた。
私は○をつけた。
私たちに返却した。
「どうぞお通りください」
「どうも」
カイルが言う。
私たちは問題なく門を通ることができた。
「返すの!?」
「あくまで形式上のものだからね」
コマチさんが答える。
私たちはついにエルツの町に入った。
「な...か、かわいい。綺麗...」
町はそれぞれ、赤の建物、黄色の建物、緑の建物、
一色に塗られたいくつもの建物が立ち並んでいた。
「確かにこれなら入町理由に"観光の場合は○を"って最初から書いてあるのも納得だ...」
私はそう言いながら目を閉じてうなずいた。
「いや、観光客はいない。
仕事で移動しなきゃならないとかじゃない限り、
わざわざ自分から町を移動するやつはいない。残念だけど。」
そう言ってカイルは町の方を見ている。
「それは違うね。
私もあんた達も、こうやって別の町に来てるじゃないか」
コマチさんの言葉を聞くと、
「確かに」と言ってカイルは微笑んだ。
「そっか...。こんなに綺麗なのに、この町に住んでる人しか、この町並みを知らないんだ...
実際私も、今まで知らなかったし。」
「ステラ、このエルツの町の建物、実はみんな300年前に建てられて、
一度も立て替えられてないって話だ」
「え、それは流石に嘘でしょ」
するとコマチさんが言った。
「少なくとも私があんた達くらいの歳の頃にはあったよ。」
それにカイルが付け足す。
「建物はみんなすごく頑丈な"何か"で作られてる。
だから建物自体は何をしても壊れない。
それでも塗装だけは剥がれる。
だから毎年上から塗料で塗り直す"壁塗り祭"ってお祭りがある。
伝統を守り、毎年毎年今までと同じ決められた色を塗り続ける。
だから何年、何十年、何百年経ってもこの町の景色は変わらない。
そこがこのエルツの町の...いいところだ」
少し沈黙が流れた。
「...まあでも私は、幼い頃に通ってた店が閉まっちゃって、
その頃とは町並みがすっかり変わってしまって
それを切なく思うのもまた、良いと思うけどねえ」
コマチさんはカイルの方を見てそう言った。
「それでそのお祭りはいつやるの?」
「時期的にはもうつい先週とか先々週あたりに終わってたはず...正確な日付はわからないけど。」
「そっか...」
「それが終わってねえんだよ」
見知らぬ男の声がした。




