2-2 服屋バリトノ・コマチ
「もうすぐ着くな」
私とカイルは山を越え、北部の町エルツに向かっていた。
もうあとちょっとで着くということだが、とても霧が濃い。
突然霧の中に黒い影が見えて、目を凝らす。
すると白い布の被り物をした人がぬっと現れた。
「わあ!?」
「ああ、ごめんなさい。驚かせてしまったね。」
そう言ってその人が被り物を脱ぐと、お婆さんの顔が現れた。
するとカイルが挨拶した。
「お久しぶりです、バリトノさん」
「まったく、レディーコマチと呼びなさいと何度も言っているでしょう」
「バリトノ...コマチ...」
聞き覚えのある名前で、私は何だったか記憶を探っていた。
「そこのお嬢さんはルーくんの連れかい?」
「はい、彼女は—
「あ!!!!!!!!!!!!」
「わああ!?」
今度はバリトノさんが驚いて尻餅をついた。
カイルが駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「いてて...」
「はっ...!すみません!」
少しボーッとしていた私はすぐにバリトノ・コマチの手を引いて立ち上がらせた。
思い出した。
彼女はバリトノ・コマチ。イドラ先生から困ったら助けを求めろと言われていた服屋さんだ。
でも彼女は東部に店を構えていると聞いていた。
ここは北部のはずなのに、どうして?
「はじめまして!私、ステラと言います。
イドラ先生の教え子で、困ったらコマチさんを頼れと言われてきました。」
そう言って彼女に手紙を渡す。
「ですがコマチさんは東部にお店を構えていらっしゃると聞いていました。」
バリトノ・コマチさんは手紙を受け取って言う。
「うん、そうそう、ドラちゃんからも既に別の手紙を預かってたのよ。
なんか指名手配犯が来るから助けてあげてって。
だから来ちゃったの」
冗談めかした言い方をして、コマチさんはウインクをした。
「まあ、本当は弟子の顔を見に来たんだけどね」
「弟子...ですか?」
コマチさんがうなづく。
「それってもしかして」
私はカイルの方をみた。
「いや、俺じゃないが」
違ったみたいだ。
「案内する。」
そう言うカイルについて行き、私はコマチさんと濃い霧の中を進んでいった。
「実はここがどこかわからなくて、あなたたちが今日来なかったらどうしようってところだったの」
「ええ!?本当ですか?」
「もちろん、本当よ」
「それじゃ私たちが今日来るかはわからなかったってことですか!?」
「いや、わかってた」
「どうやって...?」
「ふっ...大人の勘よ」
「ここ段差あるから注意して!!」
前からカイルが言う。
「わかった!!コマチさん」
私はコマチさんの手をとって引き上げる。
「あら、助かるわあ」
「ところでドラちゃんは元気?」
「はい!」
「そう、それは良かった!」




