1-E 勇者の剣探して
私たちは山を登っていた。
これを超えたら北部で、町があるという話だった。
しかしそれ以前に、つけられている気がする。
私たちの後ろに、
ローブを深く被った人が、何かを包んだ布を脇に抱えて歩いてきている。
それにその人の立ち姿というか雰囲気というか、なんだか安心する、見慣れた感じがする。
私たちの命を狙ってついてきている感じには思えない。
気になってさっき声をかけてみたが、そうしたら逃げられてしまった。
でもまたついてきたので、もう気にしないことにした。
私たちは山の頂についた。
朝焼け。いい景色。
北部の端の方ということもあり、大山脈ローネも見える。
「あなたの故郷...リギモル村、だっけ」
カイルは私の方を向いた。
「最北端って言ってたけど、ローネとどのくらい近いの?」
「村から少し行ったところにもうあった。
小さい頃に入っちゃいけないって言われてた森に行って、そこを抜けたら。」
「そ、そうなんだ」
「間近で見たら本当に垂直で、とても登れそうじゃなかった。」
彼は手を使ってこんなに垂直だったと見せる。
「それじゃあお別れだ」
そう言って彼は行こうとする。
「私の冒険を見届けるんじゃなかったの?
それが俺の道だーって言ってたじゃない」
彼はわずかに微笑んだ後、黙って俯いた。
その後、こちらを向いた。
彼は意外なことを言った。
「王城に行こうと思うんだ。そして、王を殺す」
彼は怖い顔をする。
「え...あの挑発に乗るの!?真の王とか言ってたけど、あんなの絶対偽物だよ!」
「いや、元から行くつもりだったんだ。」
「元から?」
「...この世界に住む人のほとんどは、日々したくもないことを嫌々しながら生きてるって、
最初にあった時言っただろ。
王都に行くと分かりやすいんだけど、そういう鬱憤は全部王に対して向いてる」
「じゃあ王はとんでもなく悪い人間ってこと?
いや、それだったら鬱憤を向けてくる人は王に容赦なく殺されてるか...。」
「王は何もしてないさ。
自分の人生がうまく行かないのは王のせいだと、人たちはそう言い張ってる。」
「じゃあ王は悪くないってこと?」
「確かにそうだな。
でも、王であるということは、民を導き、賢くないといけない。俺はそう思うんだ。
例えば王がとんでもなく親切な男だったら、
みんな何の努力もせずにお金も手に入れられて、毎日遊んで暮らして、ウハウハかもしれない。」
手を振り芝居っぽく言った。
「でも現実はそうじゃない。
文句をいくら言ったって何も変わらない。
だって王が何もしてなくて、それで自分も何もしてないんだったら、何も変わらなくて当然だよな。」
彼は話している間遠くに向いていた視線を、こちらに向けた。
「不満があるならそれを変えなきゃならない。
文句があるなら、騒ぐだけで満足してないで、実際にその文句を実行して事態を好転させようって。
都合の悪いことは当たり前で、その上で自身の目的を達成させようって。
この世界に生きるみんなが、そう思えるようにする。
そして全ての人が自身の夢を叶え、それによってこの世界が新たなもので溢れ、形を変えていく...。
俺はそんな光景が見たい!」
私は彼のきらきらした目を見て、これから私が新たにすることを心に決めた。
でも彼は怖くて悲しい顔になった。
「そのために俺は何の罪もない王を殺して、
この世界に生きる全ての人たちから、言い訳の余地を消す。」
彼は何か間違えている。
いや、間違えていないかもしれないけれど、正しいのかもしれないけれど、
それでも人殺しがいいなんてことは絶対にない。
彼を人殺しにさせるわけにはいかない。
いや、私が絶対にさせない。今そう決めた。
「殺さなくたって、王様と話でもしたらいいんじゃない」
「そうしてみるよ。...それじゃあ」
彼の兎の耳みたいな二束の髪がひるがえって、その場から去ろうとする。
彼を人殺しにさせないために、私がやること。
世界中を見ることに加えて、新たにやること。
それは—
「カイル・リギモル!」
「?」
「あなたを私が作る冒険家ギルドの冒険家にスカウトしたい!」
彼は驚いた表情をした。
「あなたの助けがあれば、私はきっと必ずあの大山脈ローネのその先に行ける!
だから、私を助けなさい!昨日、そう宣言していたでしょう?」
私は握手を求め手を差し出す。
彼は初めは唖然としていた。
「知らないの?
私は魔物も恐れる星眼の魔女ステラ!あなたに損はさせないわ」
それから少し目を瞑って...
だけどすぐにカイルは応えた。
「...いいだろう。
俺は今、きっぱりと、冒険者をやめる。
今日からこのカイル・リギモルは、あなたの冒険家ギルドの冒険家だ!」
にかっと笑った彼は私と握手した。
そして彼は言った。
「ローネの先に行きたいあなたに、いい情報を教えよう!
俺の故郷にはこんな言い伝えがある。
"勇者の剣手にし者、巨大なる門戸を開き、閉じられた世界を壊すだろう"...
一見不穏な文章だが、これは垂直でとても登れないローネをぶっ壊して通れという意味だ!
他の言い伝えも踏まえて、俺はそう判断した!」
それ本当に大丈夫か?でも...まあいいか!
「300年前にこの世界を救ったという勇者、イリキナ=ロウタの残した聖剣。
この世界のどこかにあるその剣を、必ず見つけ出す。
協力してくれるか、冒険家ステラ」
「ええ、もちろん。
よろしく、冒険家カイル・リギモル!」
「星眼の魔女ってのは知らないけど」
「ええっ!?台無しだ...」
こうして今はまだ世界でたったひとつの、私たちの『冒険家ギルド』の冒険が始まった!
-第1章『冒険家たちの邂逅』完
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