1-34 王の亡霊
「カイル!」
私は慌てて崖のとこまで来る。
すると彼は岩肌に武器の刃を突き刺し、それに掴まっていた。
「なあ、めちゃくちゃ痛い、はやく、引き上げて、頼む」
私はツタを渡し、引き上げる。
彼はもう一方の手で騎士ゴーシュを掴んでいた。
カイルは息を切らしながら言う。
「お前とその鎧に勝ったぞ。この武器のおかげで。あと、俺の右拳と、ステラの風魔法と、あと木の枝で。」
同じく息を切らし、ゴーシュは項垂れた。
「...」
その後に森の方を確認したが、私たちに喋りかけてきたゴブリンはいなくなっていた。
代わりにベアが木の枝を掲げてそれを振っていた。
—その日の夜。
私とカイルとゴーシュとベアで鍋を囲む羽目になってしまった。
と言ってもベアは鍋の熱いものは食べられないが。
「...」
「...」
「...騎士団にいた時はどんな感じだったの?」
「カイルは—」「ゴーシュは—」
2人がかぶる。
「いや、カイルのことをゴーシュに聞いたつもりだったんだけど」
「ごめん、疲れてるんだ。じゃあ、ゴーシュ。」
「いや、お前から言えよ」
「わかった、じゃあ俺から。」
さっきまで敵対心を満々にして戦っていたのが嘘みたいに
彼らは久々に会った古い友人という感じの雰囲気になっていた。
「ゴーシュは今と同じで真面目だったな。
お母さんに不自由ない暮らしをさせてやるんだって言ってたよな」
「いや、言ってない」
「ああ、そうだった。お前が書いてた日記を勝手に読んだんだった。
お母さん元気か?」
「ああ。一応。でもこれで俺クビになるよな...」
「ああ...」
カイルはなんとも言えない返答をする。
「で、カイルはどうだったの?」
「ああ、まあこいつも同じって言うかあんまり変わってないんだけど...
でもまあ、ちょっと明るくなったんじゃないか?」
「そうか?」
「ああ。まあ、彼女のおかげだろう」
「そうだな」
ゴーシュはニヤニヤと笑うが、カイルは満面の笑みだ。
二人の間には間違いなく、言葉の認識にズレがある。
「で、ゴーシュはこの後どうするの?」
「城に戻るつもりだ。
捕まえられなかったし鎧も壊されました!って報告する為に。
そしたら俺は職を失うのはもちろんだが、最悪クビはクビでも打首かもな」
カイルとゴーシュは笑っていたが、私は笑えなかった。
「このまま休んで行けよ」
「いや...まあ、そうだな」
そしてそのままゴーシュもここで一晩休んでいくことになった。
その晩のことだった。
私たちはすっかり寝静まっていた。
ガンっと何かが蹴られる音がして、私は目が覚めた。
その直後、水しぶきの上がる音がした。
「誰だ!?」
カイルの声。
私は知らない気配がした気がして、そちらを見た。
何かいた場合、火をつけると目が慣れて視界が暗くなるため、
確実に仕留められると確信するまで火は出さないようにした。
すると煙のようなものが宙を舞っていくのが見えた。
そしてそれは一箇所に集まり、人の姿となった。
「誰?」
「わたしはゴースト・ガバーン」
くぐもった声。
「ゴーシュ!...ゴーシュ?...さっきの音は!?」
カイルはゴーシュがいないことに気がついた。
「わたしはにんむをしっぱいしたてしたをしまつしにきただけだ」
くぐもった声で、聞き取りづらい。
「は?」
「なぜかわかるかそれはわたしがこのくにのしんのおうだからだ」
「王...」
目が慣れてきて、私はその姿を完全に捉えていた。
多分カイルも同じだったのだろう。
彼は武器を投げた。
刃物が飛んできても微動だにしないゴースト・ガバーン。
武器はその体をすり抜けて向こうへ飛んでいった。
「カイル・リギモルとステラおうじょうにこいおまえたちをかんげいしころしてやる」
不気味な声を聞いて、私は火の玉を連射する。
ゴースト・ガバーンは今度は煙になってその火の玉を避けるようにして、そのまま去っていった。
私たちはそのまま眠らずに夜が明けるのを待った。
そして夜は何事もなかったかのように明けた。
ゴーシュの姿はどこにもなかった。




