1-27 二刀流のゴブリ・インパクト
ついに決勝戦。
舞台も、今までの試合より広い特別なフィールドだ。
決勝戦の特別ルールで、俺もインパクトも今までの試合と違い、専用に手入れしてもらった武器を持っている。
「Aブロック優勝者、インパクト!」
「うおおおおおおおお!!!」
「やっぱり最強はインパクト!その手腕で、今年も洞穴に甘い蜜を吸わせてくれるのか!?」
「Bブロック優勝者、ゴブリ!」
「うおおおおおおおお!!!」
「まさかの初参加で決勝までやって来たダークホース!新たな風がまき起こるのか!?」
「やっぱあのでかい棍棒、インパクトには似合うよな」
「おいおい、それに対してゴブリの棍棒はここまでの試合とあんまり変わってないように見えるが—」
「確かに。でもゴブリは今回で大会初参加。いきなり使ったことのない武器に持ち替えても、使えるものも使えないだろう。」
「それもそうだな。...それによく見たらゴブリは棍棒を2本持っている。
インパクトのあの棍棒と打ち合いになったら確実に折れるだろうし、予備を持っておくのは、間違いなく賢い策だろう。」
「静かに、もう始まるぞ」
...
「楽しみだ。戦えて嬉しいよ。」
「...」
「おい、返事もしねえか...まあいいだろう。それだけ真剣ってことだよな」
作戦は決めていた。
勝負は一気に決める。
「それでは決勝戦—開始!」
インパクトが専用の大きな棍棒を振り上げ突進してくる。
俺は彼の股下を通り抜け、それを避ける。
「ゴブリ選手、小柄な体型を生かした俊敏な回避。」
「対するインパクト選手はこれまでの試合でも見せてくれていましたが、流石のパワーですね」
インパクトが振り下ろした棍棒によって、フィールドには大きな穴が開いていた。
俺はそっちに向かって走っていく。
そのまま棍棒を振り抜く—
しかしインパクトはすぐさま重そうな棍棒を振り上げ、俺に強烈なカウンターを見舞った。
「ああーっ!」
解説とともに観客達もあーっと声を上げる。
だが。
「これは...
しがみついています!
ゴブリ選手!インパクト選手の棍棒にしがみついている!
振っても振っても離れない!」
「しかしこのままだと—」
インパクトが棍棒を振り上げて、そのまま俺を地面に叩きつけようとする。
しかし、俺はこの瞬間を待っていた。
棍棒を蹴り、空中に上がる。
そして持っていた棍棒をインパクトの顔目掛けて振り落とす。
「うわああーッ!」
俺の棍棒がインパクトの目に突き刺さる。
彼は手で顔を抑えるが、俺はもう一本の棍棒で殴る。
だけどそれをインパクトは掴み、棍棒を握り潰した。
パラパラと木片がこぼれ落ちる。
俺は目を突いた方の棍棒を折られる前に回収し、距離を取る。
インパクトはよろめきながらも俺の方を向き、突進してくる。
「クッ、うおおおおおおお!!!!!」
今だ。
俺に棍棒が叩きつけられそうになるその瞬間、
股下を潜り抜けた。
走ってきたインパクトはフィールドの外へ行きそうになるが、
そのまま棍棒をフィールドの端ギリギリの床に叩きつけた。
棍棒は宙をまい、インパクトは反動で元の方にもどる。
しかしそのせいでインパクトは仰向けで倒れ込んだ。
一筋縄ではいかないか...!
そう思った瞬間だった。
真上に、影が迫った。
「危ない!」
つい俺は叫んだ。
もう遅かった。
空中から重い棍棒が落下して、そのままインパクトの体に打ち付けられた。
「...」
会場はしんとしている。
「......ゆ、優勝は、ゴブリ選手ーーーーー!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
観客は騒いでいたが、俺はインパクトの方へ駆け寄り、他のゴブリンたちと協力して棍棒をどけた。
「おい、ゴブリ」
「なんだ」
「優勝おめでとう...お前本当につええんだな...」
「...」
「これで、お前がこの洞窟の王だ...。
それに、王である優勝者は、なんでも...願いを叶えられる。
どんな種族の女でも、人間が作った酒でも、命じればなんでも手に入る...」
「もういいから喋るな、大人しく治療されろ—」
「いいから話を聞け!!!
治療なんかねえよ...あと、その棍棒、やるよ。」
「持てないからいらない」
「そこは嘘でももらっておけよ...まあいいや。正直に越したことはねえ」
「じゃあ、俺の名前を連れて行け。」
「は...?」
「記憶喪失だって聞いたぞ、名前がないんだろ。
じゃあ俺の名前をやるよ」
「いや、ゴブリって名乗ってただろ」
「じゃあ両方名乗れ...!
名前が2つあったって、いいじゃねえか。お前自身、棍棒を2本持ってきてただろ。
棍棒が二刀流なんだから、名前も...二刀流にしろよ。
今日からお前の名前は、ゴブリ・インパクトだ」
「...」
俺はこれから死ぬ相手を前に、真顔で黙っていた。
大して関わりのない相手だからと、悲しみ涙を流すこともせずに。
「いいだろう。たった今から、これから先も。
俺の名前は、ゴブリ・インパクトだ」
こうして俺は—ゴブリ・インパクトは、この洞穴の王になった。




