間話 魔法について
前回の、夜が明けるのを待っている時の一幕。
「そうだ、ステラ」
「何?」
「君、燃やすのと凍らせるの、あと風を吹かせたりもしてたじゃない?
魔法使いって1種類しか魔法を使えないって聞いたんだけど」
「うん。
魔法使いは一生に一人一つだけ、自分と共鳴したキューブで1種類の魔法だけが使える。
その1種類だけの魔法から応用して、様々な形に成長させていくものなの。」
「でも君のキューブは...」
私は先日ムリダナに壊された、ルカ—ボルカニア・ベイカーのキューブを見ていた。
粉々になった破片を、拾って持ってきていた。
「ううん、これは私のじゃなくて、友達の。」
「じゃあ、君のキューブは...」
破片を丁寧に包んで袋にしまい、私はふと手首を見る。
何もない。
私のキューブはどこにもなかった。
「あれ...ない。」
おかしいな。いつから無かったんだろう。
「でも—」
私は指先で小さな火を出した。
「できる...
キューブが体に触れてないと魔法は使えないはずなんだけど...
...もしかして、寝てる間に食べちゃった、とか」
私も彼も笑った。
「もしかしたら、キューブが近くになくても魔法は使えるんじゃないか?」
「うーん...もしそうなら、とっくにそういうふうに教えられてると思うけどなあ...
使い慣れてる魔法限定で使えるとか、かな...」
「なら俺も魔法使ってみたいな、やり方を教えてくれない?」
「話聞いてた?まあいいけど」
「ステラ先生、お願いします!」
「任せなさいカイル君、よく聞いておくんだよ...」
彼の真似をしたのか、ベアも私の方を向いて「ガウガウ」と頷いた。
「そうだね...私が初めに使ったのは火を出す魔法で、これは今でも一番簡単にできるやつ。
"燃やす"のと"火を出す"のでは使い勝手が違うけど...燃やすものがあった方がわかりやすいかも。」
それなら、と言って彼は袋から、前に食べたあの肉の薄切りの干物を手にとった。
私もそれを受け取った。
ベアももらい、それをしゃぶっている。
「そして念じるの。燃える様子を。空気が熱を帯びていくのを。それが燃え、火に変わっていくのを。」
「念じる...」
「そうだね...あとは具体的にその段階を想像するとやりやすいかも。
例えば、寒い時に手を擦るように、その干物を摩擦して火を起こすのを、想像するの。
見えないけど確かにある透明な私の手が、干物を擦って熱を生み出し、燃やす...こうやって!」
ぼうっと音がして、私の持っていた干物に火がついた。
「こんな感じで!...ん?」
彼はなぜか、後ろを向いていた。
私はそっちに歩いていく。
「どうしたの—あつっ!」
不用意に手からを燃える干物を離してしまった。
それは地面に落ちる。
するとすぐさま彼が振り向き、燃える干物を踏んで火を消した。
草に燃え広がって森が火事になることはなかった。
「...ごめん!ありがと—」
見ると、彼の顔は白い骨のようなもので覆われていた。
よくみたら、ウサギの顔のようだった。
「...何その、ウサギのお面は」
「...いや、これは...手品だよ。そういう。
火ではなくお面が出てしまいました〜!...みたいな」
そう言いながらカイルは後ろを向いてお面を外す。
「ふふ、なんだそれ」
「ははは...」
こちらを向いた彼の顔はほんのり赤くなっていた。
その後も魔法の伝授を試みたが、彼の持っている干物から煙が上がることはなかった。




