1-22 クマ、クマ、クマ
クマは腕を下げ、「くうん」と鳴いた。
怪人ウサギ男はその黒い毛むくじゃらを撫でる。
「その、クマ、クマ、クマ...」
「こいつはベア。俺の、今となっては唯一の大事な家族だ」
少し唖然としていたが、私は手の平に出していた炎を消した。
「ベアってのは俺が勝手につけた名前だ。
種族としての名前は...多分だけど、サウザリアフォレストオオグマ。」
「リアちゃんとかオグちゃんとかじゃないんだね」
「人間にヒトちゃんとかゲンちゃんって呼ぶのも変じゃないか?」
と彼は言ったが、
「...いや、そんなに変じゃなかった」と訂正した。
私も別に変じゃないと思う。
「ベア、こちらはステラ。すごい冒険家だ。」
「よろしくね。」
「ガウ」
そう言ってベアは唸る。
クマ語はわからない。
でも一応後輩の<動物と話す>魔法を見ているので、やれないことはない。
でも集中力がとんでもなく必要で、頭も痛くなる。
実際学院でやってみたことがある。
件の後輩メルネに事前に「このワードを繰り返し言って」と動物に言ってもらい、それを当てることはできた。
だけど普通に話してもらって、それを即座に意訳することはできなかった。
試したら、鼻血がどばどば流れた。
「そうだ。俺の自己紹介もまだだった。
俺はカイル。リギモル村のカイル・リギモルだ。」
「へえ、村の名前と姓が同じってことは、村長の息子、もしくは孫とか?」
「いや、違う。ジェリーって女の子がいて、彼女が村長の孫娘だった。
俺と暴れん坊のシェル、そしてしっかり者のジェリーの3人は、幼なじみで毎日一緒で遊んでた。」
「急に語り出したね...。その人たちは今何をしてるの?」
「死んだ、5年前に。
「リギモル村の人はみんな、こいつに食べられちゃったんだ」
そう言ってカイル・リギモルはベアを撫でる。
ベアがくうんと鳴き、縮こまった姿勢から悲しそうな顔をしているのがわかった。
「ごめんごめん、悪かった。だから落ち込まなくていい」
そうベアをなだめながら彼は言った。
「俺とベアだけが生き残った。
だから俺はカイル・リギモルを名乗り、リギモル村の名前を伝え続ける。」
「前にリギモル村は北の最端にあるって言ってたよね?」
そういえば、ここは東部から西部にかけての森で、ほぼ北部と行っても過言ではない。
北端には遠いが、その村がなんだか気になる。
「行ってみたいんだけど、その...案内してくれない?」
それを聞いた彼は少し黙った後で答えた。
「...断る。」
「どうしてか、聞いてもいいかな」
「しばらく、行かないって決めてる。
誰もいない村を、また活気づかせることができるって確信できるまでは。」
「そっか—」
そう言いかけた途端、怪人ウサギ男は言った。
「だけど君のおかげでそれは確信に変わりつつある!
頼むから、冒険者ギルドに入ってくれないかな!?」
「それは断る。それだけは何があっても曲げないよ。」
「...そうだよな、すまない。」
「別に謝ることじゃ...」
ふうーーっとため息をついて、私は丸太を枕に仰向けになった。
流石に魔物とかもその辺にいるだろうし危険だと思うから眠るわけにはいかないが。
私はそのまま、たまにスープのおかわりをもらって飲みつつ、夜が明けるのを待った。




