1-17 私がなるのは冒険者じゃなくて
「ステラ、君を冒険者ギルドの冒険者にしたい!」
怪人ウサギ男はそう言った。
そうだった。彼はここに来て最初に、私に冒険者ギルドに入ってほしいと言ってきたんだった。
「冒険者ギルド...。」
「もしかして冒険者ギルドが何か、知らな—」
「いえ、知ってる。冒険者たちがパーティと呼ばれる徒党を組んで、遺跡を探索したり魔物を討伐したり、
そういったことをする機関のこと、だよね?」
「ああそうだ。知ってたんだ」
怪人ウサギ男がちょっと嬉しそうな顔をしたのがわかった。
「ローネ小説だと大概酒場なんかと一緒になってて、
ギルドが酒を振舞うことで冒険者が依頼で得た報酬を回収しちゃうっていう」
怪人ウサギ男がそうそう!そうなんだよね!と言って食いつく。
「300年前には本当にあったって話だけどね、冒険者ギルド」
私がそう言うと、彼は真っ直ぐな瞳で、それでいてギラギラした野望を感じさせる笑みを浮かべて言った。
「俺はその冒険者ギルドを作ってるんだ」
「冒険者ギルドを、作ってる...」
「いや、まだ建物だってないし、このご時世に冒険をしよう!なんて人もなかなかいない...
普通はさっきの観客たちみたいに、馬鹿にして笑うだけのネタになるのがオチだ。
...でも!君は『絶対に世界中を見て回る』って言った!『絶対に』って!
そして、君が本当に『絶対にこの世界の全てを見て回る』人間なんだって、俺にはそういうふうに見える!」
「...」
「だから、新しく作った冒険者ギルドで、ステラ!君に冒険者になってほしいんだ!」
確かに、面白そうで、わくわくする話だ。
けど、私は決めている。
私は冒険者にはならない。
「...ありがとう。でもそれは断らせてもらう。
私がなりたいのは、ローグじゃなくてトラベラー...」
おかしな言葉を出してしまい、言い淀む。
「いや...。」
一度目を瞑って、もう一度開けて、今度は堂々と言う。
「あらくれものの冒険者じゃなくて、自由に旅する冒険家だから。
私がしたいのは仕事として依頼をこなすことじゃない、自分の意思でいろんな場所を探究して、自由に冒険するんだ。」
怪人ウサギ男はそれを聞いて私を少し見つめた後、帽子を深くかぶって...そして頷いた。
帽子を元に戻し、彼は言った。
「そうか、わかった!」
彼の話を聞いていると、なんだか惜しい気もするけれど。
私がもう決めたことなんだ。それを覆すわけにはいかない。
「それじゃあ、君の旅に幸あらんことを」
去っていこうとする彼に、黒いケープマントを返すために呼び止める。
「待って、これ—」
「ああ...それは君にあげる。薄着でいると、想像してるより寒いみたいだから。」
また去っていこうとする怪人ウサギ男。
「そうか...いや、そうじゃない!この格好で帰ると目立たない?」
私が呼び止めると彼が振り返る。
「自分が思ってるより、みんな周りのことなんか見てないさ。
それにもし見つかっても、彼らは確信が持てなきゃ、通報する暇も勇気も持ち合わせてない。」
「確かにそうだけど...いや、確かにそうだ。
多分大丈夫だろうって、私が危険な目にあう可能性を見てないフリにしてる暇も勇気ない人がいる...すぐそこに。」
私はいたずらな言い方をして、彼を指差した。
「...本当だ」
彼がまた振り返り、今度は戻ってきた。
「人に指を指すんじゃないよ」
「ごめん」
「俺が君をお家まで送り届ければいいか...家が安全ならだけど。」
「ありがとう!そもそもここがどこかわからないから帰りようがなくて...
ウェステリア魔法女学院の正門まで一緒に来てもらえますか?そこの寮に住んでるので」
「わかった。」
「ありがとう!」
私は不意に、ここがどこなのか不安になった。
頼んでおいてなんだが、ここが学院からとてつもなく遠い場所だったらと思うと、申し訳なく感じた。
「...ここってまだウェステリア...だよね?」
「ああ。」
それからどれくらい時間が経ったかわからないが、気がついたら学院についていた。
思ったより遠くなかったようだ。
道中で私たちは色々と話をしていたが、彼の名前については聞くのを完全に忘れていた。
怪人ウサギ男自身からもそれが話されることもなかった。




