1-16 赤黒い肉の干物
私はしばらく残骸を見ていたけど、それは彼女が飛ばした粘液と同じで、闘技場の舞台の石がただ溶けているだけだった。
シスター・ステラシュキが姿を表すことはなかった。
私は立ち上がると、怪人ウサギ男は私にキューブを差し出した。
ひび割れているが、赤黒い粘液は全くついておらず日の光をきらりと反射している。
「これ、持っておく?」
「いや、いらない。」
持っていたら、生き返るんじゃないかときっと期待してしまう。
私を食べようとした挙句、価値がないと言い放った彼女を。幼い頃に共に暮らしていたという理由だけで。
「そうか」
「捨てるの?」
「いや...」
そう言って彼はポケットに入れた。
「はあ...ねえ、あなた名前は?」
「俺は—」
彼がそう言いかけた途端、ぐうと言う音が鳴った。
魔法を使いすぎて、私のお腹の中は空っぽになってしまっていた。
「食べる?」
そう言って彼は紐で結んだ麻袋を取り出した。
紐をほどき、麻袋の開いた口をこちらに向ける。
私が一つとると、それは肉の干物だった。
赤黒い色。
ふと前を見ると、怪人ウサギ男は自分も袋から干物を取り出し、口にくわえていた。
「さっきこんな感じの色見まくった後だけど、よく食べられるね」
「...これしかなくて。いらないなら」
そう言って怪人ウサギ男が干物を渡すよう手を伸ばす。
「いや、アリガタクイタダキマス」
私は干物を噛んだ。
わずかに塩味を感じた。
意味もなく、ちゅーっと吸った。
よくわからないおいしさがあった。
それからしばらく干物をかじっていたら、彼はいなくなっていた。
しかし辺りを見回すと、彼は観客席があった場所に飛び上がり、黒い布を持って戻ってきた。
「寒ければ、どうぞ。寒くなければいい。」
「...?ああ、ありがとう!」
そうだった、私は寝巻き姿のままここに連れてこられたんだった...
「...」
その黒い布を見ていると、観客たちを思い出した。
彼らは黒い被り物をして顔を隠していた。
「これって観客の...」
「いや、違う。俺の私物だけど...ああ、嫌だったか?」
「いや、ありがたくもらっておく」
私は渡されたフード付きの黒いケープマントを羽織った。
でもやっぱりあの観客たちを思い出す。
「はあ............いやあ、つい思い出しちゃったんだけど観客口悪かったな〜」
「...ああ...」
「あれも西司教の作ったネチョネチョの生き物だったのかな」
「いや、あれは普通の人間だ」
「...そっか。素直じゃないなあ〜!みんな素直に応援してくれれば良いのに〜!
ステラちゃんちょっと傷ついちゃったかも〜!」
「...辛いんだ」
「?」
「みんな、したくもないことをしながら毎日嫌々生きるのが、辛くて、頑張りたくなくて。
だから世界中を冒険しようっていう君をバカにして、
自分はこいつを見下しているからこいつより上なんだって、
悪人であるあいつを悪く言っているから自分は善人なんだって、そういう気持ちになりたかった。」
「...」
「何もしたくない。何もせず、ただ人を貶して、自分の方が辛い思いをしてるんだって思いたい、
自分は賢くてまともで現実を見てるんだって思いたい...
そうやって必死に自分を騙していかなきゃ生きていけないって、信じ込んでる人たちが大勢いる。
だから...許してほしい。」
「...。」
「...でも!それは別に悪い奴ってわけじゃなくて!普通のことなんだ。みんな普通で、本当は優しい人間なんだ...」
「そっ、か。...じゃあ仕方ないな〜!この私が、広い心を持って全てを許しましょう!」
「...そうだ、そうだった!」
「え?」
彼は私の手を握った。




