1-14 ひび割れたキューブ
怪人ウサギ男は空中でくるりと回転し、噴出された粘液を躱した。
それと同時にすかさず右手の厚い手袋を脱ぎ捨てた。
脱ぎ捨てた手袋に粘液が直撃し、跡形もなく溶け消えた。
彼が着地すると、手袋を脱ぐために触れた左手の手袋にも、飛沫した粘液が付着して小さな穴が無数に開いていた。
怪人ウサギ男は左手の手袋を地面に優しくおいた後、ムリダナに言った。
「西司教殿、あなたにお聞きしたいことがあります!」
「...」
ムリダナは返答しなかった。
「そのお姿について詳しくお聞きしたい!
一体いつ、どのような方法で、何がきっかけで変わるようになられ—」
「なんだ、そんなコとですか。そんなの—」
ムリダナは落ち着いた口調に戻った、ように見えた。
「スてラを食べたイからに決マっていルでしョオおおおおおオおおおおおおおおオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そう言ってムリダナは私の方へ向かってきた。
私は向かってくるムリダナを迎え撃つため炎を出す。
その時、ムリダナを挟んだ向こうであの武器を投げた風切り音が一つ、遅れてもう一つ聞こえた。
「ステラ!合図したらムリダナの頭上に炎を投げてほしい!」
「...わかった!」
風切り音が私の後ろへ飛んで行って、また戻ってくる。
ムリダナは私のすぐそこまで来ていた。
武器が彼女の後ろに飛んでいくのが見えた。
「今だ!」
合図を聞いた私が炎を投げると、怪人ウサギ男はムリダナの頭上に現れた。
武器に炎が直撃し、彼はそれを投げる—はずだった。
「あつっ!」
彼は右手から武器を離してしまった。
武器は落下し、このままでは床に落ちて、ムリダナには命中しない。
「いタだきまアあああああす!!!!!!!!!!!」
ムリダナが私にのしかかろうと飛んでくる。
私はすかさず炎で膜を作って、私に近づけないようにする。
しかしその瞬間、風切り音が聞こえた。
左から飛んできた何かが、落下するはずだった武器とぶつかったのが見える。
炎の膜で前が見えなくなる。
その瞬間、また合図が聞こえた。
「今だ!」
私は風を吹かせ、炎の膜を上に飛ばした。
ムリダナの粘液の体が黒い灰に変わっていく。
「わあああアアあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
ムリダナの呻き声が聞こえる。
灰で覆われたそこは真っ黒な夜空のようで、隙間から光が徐々に差し込む。
それらすべてが熱風で吹き飛びムリダナの粘液の肉体を貫通し、空が見えた。
石の床に何かが叩きつけられる音がして、
それはすぐに煙の上がる音に変わった。
「カ...カ...」
巨大粘液生物の腹に大きな穴が開いて、私はそこに立っていた。
掠れるような声のする方に振り向く。
そこには怪人ウサギ男がいて、足元にはあの刃物が煙を立たせていた。
彼がそれをどけると、ひび割れたキューブがあった。
キューブの周りの黒い灰が、額縁のようだった。
周りには粘液がまだ広がっていて、そこがムリダナの首元だということに気がついた。




