1-10 死ぬつもりなんか一切ない
「神聖なる裁きのためお集まりいただいた皆様、御機嫌様。」
この女性の声は、聞き覚えのある声だった。
「四方司教西司教ムリダナ=ステラシュキです。本日処刑する大罪人はこちら、星眼の魔女ステラァ!」
「うおおおおおおおおお!!!!!!」
「やっちまえええええ!!!!」
「犯罪者めえええええええ正義の力を思い知れええええええ!!!!!」
黒い被り物をした観客たちが騒いでいる。
ムリダナ=ステラシュキ。
彼女は私が学院にくる前にいた孤児院のシスターだった。
「私が大罪人かあ...。シスター・ステラシュキ、お久しぶりです。よだれ垂れてますよ」
シスター・ステラシュキは気に入らなさそうに顔を歪ませたが、それは歪んだ笑みに変わった。
「ご馳走を前にしてよだれを垂らすことは、いけないことでしょうか。」
「?」
「あなたが美味しそうで美味しそうで、ずっとたまらなかったのです。あなた自身、罪深いと思いませんか?」
「...星眼の魔女って異名、知ってたんですね。嬉しいです。」
「ええ、あなたのことならなんだって知っていますよ。」
「星眼の魔女って、響きがかっこいいですよね。」
彼女の顔は歪み、無言で返答がなかった。
だけどすぐにまたニヤッと歪んだ笑いをして、ポケットからある物を取り出した。
「これが何かわかりますか?」
銀色の細い腕輪、赤色と水色の宝石、それは紛れもなくルカのキューブだった。
「なんで...」
「この魔女はこのキューブでどんな魔法でも使えて、大した努力もせず楽々生きてきた。
きっと今もここから私たちを殺そうとしています。なんて悪逆非道なのでしょう!」
「許せない!!!」
「最低だ!」
「こんな奴早く殺せ!!!!!!!!!!!!」
「でもそれももう終わりです。」
ムリダナはそう言って金槌でキューブを壊した。
「これでこの魔女は魔法を使うことができなくなりました!」
「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
「ざまあみろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
歓声が上がった。
「...」
「最後に、言い残すことはありますか?」
ニヤニヤした彼女は私に拡声箱を差し出した。
私はそれを手に取って、話す。
「...私には夢がある。
このパローナツの大地の、山も、川も、谷も、洞窟も...町も。全ての場所を歩き、この目で見る。
その後は、このパローナツの大地を囲う神の山脈<マウント・ローネ>を越えたその先の世界...まだ誰も見たことがないその場所に辿り着いて、その景色をこの目に焼き付けて見せる。絶対に。」
一瞬しーんとした後、観客たちは一斉に笑い声をあげた。
「こいつ頭悪すぎだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「できるわけないだろ現実見ろおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
「夢とかきもすぎいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「あっひゃっひゃっひゃっひゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
メガホンを口から離し、ニヤニヤしている彼女に向かって言う。
「だから、ここで私が死ぬことはない。私が死ぬときは、世界の全てを見た後だ。」
それを聞いた途端、笑みを浮かべていたムリダナ=ステラシュキの顔は一気に歪み、怒りと焦りが滲み出た。
「それはない!お前はっ、私のものだあああああああ!!!!!!!!!」
そう言って、ムリダナ=ステラシュキは処刑を執行するレバーの方に走っていく。
ここから抜け出す算段はできている。
頭上の刃は凍らせて横の支えと固定。私の首と両手を捕まえている木の板は、一部だけを燃やして折る。
簡単というわけでもない。
ただでさえ難しい氷魔法に加えて炎魔法も限定的で集中力のいる使い方をするせいで、頭への負担がとんでもない。
一部と言ってもこんな至近距離で燃やしたら火傷もするだろう。
...だったらなんだ。
絶対に世界を見て回るんだから、こんなところで死ぬつもりなんか一切ない。
「目的を決めたら、あとはやるだけだ。」
^ivi^[ネコニス'sTips]
四方司教とは、このパローナツの東部・西部・南部・北部をそれぞれ管理する、いわばその地域の管理人...みたいなものです。
読み方は「よもしきょう」ではなく「しほうしきょう」なので気をつけましょう!




