1-1 ウェステリア国立魔法女学院
ここは<ウェステリア国立魔法女学院>の大講堂、卒業制作発表会の真っ最中だ。
司会生徒はマイクを握り、
「ここまでやってきた卒業制作発表会、残すは最後の1組となってしまいました...。」
と、噛み締めるように言った。—と思った途端、いきなり大声を出した。
「それでは呼びましょうっ!掉尾を飾るのはこのコンビィ!!」
舞台袖で
▷))「いくよ、ルカ」
▷))「うん、ステラちゃん」
そんな声が聞こえる。
司会は大きく息を吸って2人の名前を呼ぶ。
「ステラァァァァーーーーーー!!!!& ボルッカニアァァァァーーーーーー!!」
大勢の生徒が注目する中、2人の少女が舞台に立った。
「きゃああああああああああああ!!!!!!ステラ様あああああああああああああああああああ!お美しいですわあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ボルカニア様もたまりませんわああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
観客席の生徒たちは、みな良家の御息女とは思えないほど、熱狂していた。
しかしいつもこのように羽目を外しているわけではないのだ。
みな普段は淑やかなのである。
私はこの学院の教師としていつも彼女らを見守り、聞守っているのだから、よくわかっている。
今熱狂している生徒たちも...いや、私もだ。今舞台にいる彼女と関わる以前はこうではなかった。
いつも品行方正を意識し、模範たるもの、綺麗なものでないといけないと。
きっと以前なら、我が学院でこんなえんため染みた行事を行うだなんて知ったら誰もが泡を拭いて倒れていただろう。
そうでなくても、こんなの必要ない、綺麗じゃない、素敵じゃないって私は憤慨していたと思う。
この場所も、私たちも、すっかり変えられてしまった。
「...もちろん必要であると思ったから開催したのであって、単なるおふざけではありませんが。」
「しーっ。イドラ先生、始まっちゃいますよ。」
「おっと失礼」
つい心の中のことを口に出してしまった。
うっかりと言うよりは、私ももう歳...ということでしょうか。
実を言うと、この卒業制作発表会はめずらしく私が提案したものでした。
まあ、私が提案しなくても...逆に彼女たちが提案しにきていたわけですが。
ではなぜ私がこの発表会を提案するに至ったかと言いますと、卒業する生徒みなへの恩返しが半分。
そしてもう半分は、彼女たちの魔法を最後に見ておきたかったという私の...『我が儘』です。
▷))「ルカ、準備はいい?」
金髪の少女ステラは、会場の熱狂が耳に入っていない、まるで2人だけの世界にいるかのように、囁くように言う。
▷))「ふふ、もちろん」
亜麻色の髪の少女ボルカニアも、普段となんら変わりないかのような落ち着き払った声で返事をした。
..........。
その空気感を受け取ったのか、会場はさっきまでの熱狂がまるで嘘だったかのように一気に静まり返る。
私は自身の拡魔の箱に向かって、周りに聞こえないよう小声で、素早く、しかし祈るように詠唱を行った。
「わが髄に刻みし旋律よ。流れろ、ムジカ・カスカータ。」
詠唱を終えると、そこに音楽が流れ始める。
キューブの中からではない。
彼女たちが佇む舞台の、空間に、直接。私が、彼女たちのために作った曲が、流れ始める。
流れる音楽に合わせ、二人の少女は踊り、それと同時に魔法を唄い始める。
開演