4-2 困惑と跳ねる溶岩 / 勝敗と絶対厳守の約束
タイトル長いですが、別に2話分とかじゃなくて普通に2000文字(いつもの量)です。
カイル・リギモルにとって今の状況は、彼の中の数ある罪のうちの1つと符号し、フラッシュバックさせた。
『私、ずっと1人だったんだ。今まではなんとも思わなかったんだけど-』
『ええっ、君もなんだ』
『あのさ...私と家族になってくれませんか?』
声が頭の中で反響し、駆け抜ける。
そして最後には...困惑と跳ねる溶岩。
その出来事に対するカイルの罪悪感を、より強く思い出させた。
「...ありがとう。ステラがまさかそんなふうに言ってくれるなんて。嬉しいよ。」
カイルは後ろを向いて帽子のつばを掴んだまま、続けた。
「...今すぐ、したいことがあるんだ。
お願いしてもいいかな」
「.........いいよ」
するとカイルは突然意味もなく屈伸しながら言った。
「...決闘しよう」
「けっ、けけけけ結婚!?い、今すぐって...そんなの困る-」
「決闘だ。」
そう言ってカイルは武器を2つ、別方向に投げた。
武器は離れた2つの木に突き刺さった。
「そっちの木がステラの。あっちの木が僕のだ。
先に相手の木に刺さった武器を抜いた方が勝ち。
もちろん武器は、抜こうとせずともちょっと触れば外れる程度の刺さり具合だ。
かと言って、風が吹いたくらいでは外れないくらいの強度もある。
...いいかな?」
カイルは焦ったように、間髪入れずに続けた。
「ああそうだ。
決闘で勝った方は負けた方になんでも好きなことをしてもらうって条件も付け足していいか?」
「なんでも...!?わ、わかった。いいよ。」
ステラはどぎまぎしていた。
そしてカイルにとって、結果はわかりきっていた。
決着はすぐについた。
ーーー
ステラの背中には木が密着し、頭上の刃物にカイルに手をかけられていた。
ドス黒い何かに心をかき混ぜられて、目をぐるぐるとさせながら、
大して長く動いていないのに、息をぜえはあと荒くしながら、カイルはか細く言った。
「俺の勝ちだ」
そしてそのまま刃物を抜き取り、しまった。
「カイル...」
「それじゃあ約束を守ってもらう。
俺の要求は-」
「...カイル、後ろ見てよ」
ステラは少し強く言った。
振り返ると、そこには焼き焦げ穴があいた樹木。
そしてその下を見ると、地面に刃物が落ちていた。
「.........」
「私の勝ちだね」
「君は直接手にかけていないはずだ。」
「刃物を抜けば勝ちだったはずだよ。直接触らなきゃダメだなんてルールはなかったよね。」
「...」
「...わかった。カイルもどうしても私に聞いてほしいお願いがあるんだよね?」
じゃあ、引き分けってことにしない?」
「わかった。」
ステラはうなずいた。そして訊いた。
「あのさ...ここでした約束は、絶対に守らなきゃいけないんだよね?」
「...?」
「絶対に、約束を守ってくれるんだよね?」
少し沈黙。そしてカイルは口を開いた。
「うん。言われた約束は必ず守らなければいけない。
そういう...ルール、だ。じゃあ、そっちの要求から教えて」
カイルは(自身の要求を先に言うと『それを却下する』という約束を取らされるんじゃないか)と警戒した。
そのため先に要求を聞いた。
ステラは言った。
「生きててほしい」
「は...?」
「死なないでほしい。
カイルには、ずっと生きててほしいんだよね。
私が一緒にいる時は、何があっても君のことを絶対に守る。私の目の前で、カイルを死なせたりなんか絶対にしない。
だけど私といない時...ほら"この前"みたいにさ、別行動してる時とかに死んじゃったりはしないでほしい。
エルツの町で大蜘蛛と初めて戦った時もだけど、自分の命をもうダメそうだって諦めるのはやめてほしい。」
カイルは首を横に振った。
「それは誤解だ、別に俺は死のうだなんて」
「いや、誤解じゃないと思うけど」
「...!?」
「生きてて楽しいと思ってる。生き続けて絶対に叶えなきゃいけない目的もある。
だけど、なのにも関わらず、死にたがってる。
生きたいと思ってるはずなのに、それと同時に死にたがってもいる。
私にはそう見える。」
カイルの二房の兎耳髪が揺れた。
「まあ、なんでもいいけど。
君がどう思っていても、約束は絶対に守らなきゃいけないんだもんね。
私の要求は、カイルに生きていてほしいってこと。
約束、守ってね。
私が見ていないところでも破っちゃダメ、しかも一生守らなきゃいけない約束だからね。
わかった?」
ステラはカイルの頬を掴みながら言った。
カイルはその手を引き剥がし、帽子のつばを深く被った。
「...わかった。」
そして沈黙の後、自分の要求を話した。
「ここからヒシカグラまで別行動してほしい。
そしてどっちが先に到着するか勝負だ。」
「また勝負?」
カイルは黙ってうなずいた。
「それで、勝負で勝ったらどうなるの?」
「寿司を食べる。」
「負け方は、まさか食べられないの?
それはかわいそうだな。だって私が勝って、カイルが負けるに決まってるもん。」
「いや、食べられるさ。山葵山盛りの激辛寿司がね。
...だけど、むしろ山葵の辛さで感覚が冴え渡って、寿司をより味わえるかもよ。
羨ましいもんだ。」
帽子で目は見えなかったけど、にかっと笑うカイルの口元がステラから見えた。
「...いや、羨ましいのはこっちだから。」
そう言いながら2人ともその場の荷物などを取りまとめた。
そして、その場を離れダッシュした。