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4-P 最後の転生

P:プロローグ

><><


目が覚める。そこには真っ黒な空間が広がっていた。


机。椅子。本棚。

不思議な空間には似つかない、いつものあのくつろぎスペースがあった。


俺は宙に浮いたいつもの椅子に腰掛ける。

「...」

だいぶ待った。


「遅いな...」


俺は大きな声で呼んだ。


「ネコニスさまー?おーい、ネコニスさまーーーー!!」


その声は真っ黒な虚空に消えて行った。


返事は帰ってこなかった。


俺は机の上に乗っていた本を読むことにした。

さっきから実は気になっていた。


他にもポットとコーヒーの豆を挽くコーヒーミルがあった。

そのそばにあるマグカップから、熱々の湯気が立っていたので、ネコニス様はちょっと席を外しているだけですぐに戻ってくるのだろうなと思っていた。

だからそれには触れないでおいた。


本を読む。

『私と勇者様が出会ったのは、あの-』


ぱたんと本を閉じた。


あの雨の日でしたね、とか、熱い夏の夜でしたね、とかそういう類の言葉が続くことは察するまでもなかった。

だから目を閉じて、本を閉じた。


これは決して脳破壊されたくないと思ったからではない。

ただ、人の過去やプライバシーを覗き見るのは良くない行為だと思っただけなのだ。


断じてネコニスさまと勇者とかいう奴がいちゃいちゃ愛し合っているのを確認して、脳破壊されることを恐れたわけではないのだ。


「本じゃなくて、日記だったんだな...」

わざとらしくそう呟く。


すると、突如本が消失した。


「えっ!?!?!?」


慌てた。

すると視界の右下で文字が表示された。


<アイテムストレージに《猫の回顧録》が追加されました>


それを見て、少しだけ冷静になった。


「アイテムストレージ?」


視線で通知をタップすると、アイテムストレージが表示された。

さっき取得してしまった本が《猫の回顧録》として表示されていた。


そしてその横にもう一つ《不明なアイテム》が存在していた。

視線でタップすると、メッセージが表示された。


『驚きましたか!?

アイテムを無限に格納・瞬時に取り出せる<アイテムストレージ>を追加しました!

最後の転生ですから、私のできることをできるだけやりました!


「最後...?」

いまいち文章の意味が飲み込めなかった。


『具体的に言うと、この空間にあるもの全部、アイテムストレージに入れられるようにしました!

机、椅子、本棚まで、何でもかんでも入れちゃってください!!


コーヒーはアイテムストレージに入れておけば何年経とうが熱々ですから、しかるべき時にお飲みください!!』


「あれか...。」

俺はコーヒーを確認した。今も美味しそうな匂いを漂わせている。


『私はもうそこにはいません。いくら探しても出てきませんから、探さないでください。

あなたのそばにいるので。』


ますます意味がわからなくなった。


『お別れの言葉がこんなメッセージになってしまってごめんなさい。


たとえあなたが憶えていなくても、あなたを助けたいという仲間がたくさんいます。

私もその1人です。


せっかくチャンスをあげたんですから...しっかり見てきてくださいね、あなたが望んだ世界を。』


「......?」


何が何だかわからないのに、心が理解して、顔が青ざめて行くのがわかった。


「...そばにいるとか、憶えてなくても仲間がいるとか、あなたが望んだ世界とか、そんな怪しい宗教みたいなこと言って...!これ、そういうなんか変なドッキリですよね!?ネコニスさま...!!」


青ざめた顔で見ていると、変な三角形のアイコンが現れた。


『押してください!

^ivi^』


「...」


ボタンが現れた。

今までの、視界に貼られたような平面ではなく、少し奥に立体としてあるように見えた。

俺は震える指でそれをタップしていた。


すると映像が始まった。

まるで俺がその場にいるみたいに、視界全体を覆っていた。


...


映像が終わった。

俺の記憶にない人たちが喋っていた。


俺に向かって。

別に俺と会話していたわけではない。

だけど間違いなく、俺に向かって話していた。

そういう、ビデオメッセージだった。


わかったのは

<深くてあったかい場所>に俺の記憶のデータがあるということ、そして

<パローナツの頂点>に電聖剣スマトラフォがあり、そのスマトラフォの中に俺の肉体のデータが保管されているということだった。


肉体のデータとか、ちょっと考えれば信じられないようなことだった。

でも、まるで自分がそうしたかのように、元から知っていたかのように受け入れられた。


でもそれ以外のことは、俺にはわからなかった。

わからなかったけど、頭から喉の奥が熱くて、苦しかった。


震える指でスクロールすると、最後にまた文章でメッセージが表示された。


『電聖剣スマトラフォがどこにあるのかとか、記憶がなくて不安だとか、色々あると思うんですが、

行けるって信じたら意外と行けるので!!何もわからなくてもとりあえずやってみましょう!!

^ivi^』


読むと、俺はそれを閉じた。


俺は思わずコーヒーの匂いに釣られた。

つい、席を立ってそっちへ向かった。


そしてマグカップに触れた。

熱い。


飲もうとして無意識に取手を握る。

すると、コーヒーの入ったカップは星屑みたいに消えて、視界の右下に通知が表示された。


<アイテムストレージに《出来立てホットコーヒー》が追加されました>


それから俺は、一心不乱に物をアイテムストレージにしまった。

その中で、俺の心は次第に震えが止まって、冷静になって、得体の知れない覚悟に変わっていた。


それが何なのかはわからなかった。

何となく分かりかけたけど、分かり切ることはできなかった。

自分の鈍感さに怒りを感じた。


だけど、<深くてあったかい場所>で記憶を取り戻して、<頂点>で電聖剣スマトラフォと肉体を取り戻す。

それだけはまずやってみようと思った。そういう覚悟だった。


最後にあの椅子をしまうと同時に、俺の目の前は真っ黒からリアルな森の中へと変移した。

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