3-E すれ違い
転生者ゴブリ・インパクトは砂になりながら、森を歩いていた。
今回の転生でネコニス様が付与してくれたスキル《リザード・トリート》
体内の保有エネルギーを使用して任意の身体能力の出力を何倍にも増加させるスキル。
とてつもなく速く動いたり、自分より二回りも大きな怪物を押し返したり、とてつもなく高く飛んだり...
確かに強かったけど...
俺はゾンビだから食べ物の摂取・消化吸収ができず、自分の肉体そのものを消費して使用するはめになった。
普通なら食べ物を食べて強化されるとか最高なんだろうけどな...
最悪だ。
...いや、言うほど最悪だろうか。
怪人ウサギ男とは話せなかったけど、ステラとは少しだけ話せた。
きっと次は怪人ウサギ男とも会話できるだろう。
LifeSpanの値が減っていく様子が、まるで砂時計の砂が落ちていくみたいに見えて、不思議と安心した。
薄れゆく意識の中、肉体が砂となって崩れていく感覚とともに、俺は安らかに眠りについた。
ーーー
早朝。
突如姿を消した無骨な鎧の主を探して、カイルは砂を辿っていた。
謎の砂、それが彼の居場所を示していることは明らかだった。
「...!」
樹木が大きな日陰を作る森の中で、優しい朝の日差しが差し込む場所があった。
そこに、砂塗れの鎧が残されていた。
カイルは砂をかき分けたが、鎧の中には誰もいなかった。
しかし鎧を調べていると、両方の籠手に同じ形のひっかき傷があった。
」">"1/・T二八゜2L
「...」
何と書いてあるのか、わからなかった。
だけど、それが間違いなく"文字"であることは伝わった。
カイルは片方の籠手を持っていくことにした。
もう一方の籠手と残りの鎧は、彼の墓標だ。
「墓標...」
アズカットが声をかけた。
「来るのが早いな。」
「そっちこそ。
気になってたのよね。すごい動きしてたから。」
「この鎧って-」
2人の後ろから現れたベルがそう訊きかけた。
するとステラが言った。
「心配しなくていい。彼は多分、死んだわけじゃない。
ただ...砂になっただけだと思う。」
「砂の魔神さんが助けてくれたんだね。」
ベルが言った。
カイルは「歌いながら見てたのか?」と訊いた。
「当然」
ベルは得意げに言った。
...
それから墓標を整えて、花を植えた。
「これでお別れですね。しばらくは。」
ベルが言った。
「しばらくは、ね。」
私が返事をすると、ベルも他の2人も笑って返した。
「私たちはまずはウェステリア魔法女学院がある西部へ向かおうと思います。」
ベルは宣言する感じで言った。
「アズアズも行くんだ」
「ええ。イドラ先生の思いつきで突然講義をすることになってしまって。
彼女、私のこと『どうせ暇でしょう』なんて言うの。全然暇じゃないのに!」
「でも行くんだ」
「まあ、ね」
「でも、それだけじゃあなくってね...」
ベルは言った。
「メルネちゃんとポルテナちゃんとイドラ先生は今日授業があるから大きな鏡ですぐに帰ったじゃない?
その前にメルネちゃんは私とアズアズさんに『一緒に鏡で行こう』ってずっと言ってくれてたんだけど...。
でも、断ったんだ。
私、そこまでの道のりを、景色をじっくり見ながら向かいたいから!」
「それはいいな」
カイルは言った。
「はい!」
「そうよね、ベルがそう言ったらメルネも渋々了承して帰ったわ。
それで、学院からここまでの道のりを知ってる私が付き添うことになったってわけ。」
「私たちは2人とは逆方向、東部<ヒシカグラ>の方に行くね。」
ステラが言った。
「私はウェステリアに着いた後も、本当にじっくり回る予定だから、結構しばらくは会えないと思うけど...
パローナツをぐるっと一周回って、また会えたらいいよね!」
「...おお!それって何だか...ロマンチックだね」
以前、ルカが私宛の手紙に書いていた言葉を思い出した。
「でしょうっ!」
ベルは嬉しそうに言った。
「もしかしたら気づかずにすれ違っちゃうかもしれないけどな」
カイルがそう言うと、ステラがカイルの頬をばしっと優しく叩いた。
「...」
カイルは悲しそうな顔をした。
「...ま、まあ、それもそれでロマンチックだと私は思うけれど...」
アズアズがフォローを入れた。
「...そうだろ」
「じゃあ、またね。アイドル・ベル!」
「うん、次会った時には誰もが知ってる伝説のアイドルになっておくから!
だからお姉ちゃんも...」
そう言うとベルはカイルをちらりと見た後、私を生暖かい目で見つめた。
「...がんばってね!」
「っ...!?」
「それじゃあバイバイ!追っかけされたら困っちゃうから急ぐね!!
またね、ステラお姉ちゃん!!カイルお義兄ちゃん!!ベアちゃんにもよろしくねー!!」
ベルは素早く走って行った。
「ま、待ちなさい!!」
アズアズがベルを追いかけていった。
「カイルお兄ちゃん、だって-」
カイルは笑って言った。
「...あれ?ステラ、大丈夫?もしかして、熱、ある?」
直前と打って変わって、本気で心配した声色で言ってきた。
そんな言い方をされたらもっと顔が赤くなってしまう。
「なんでもないから、こっち見なくていい!」
(くっ、ベルめ...そんな言い方したら絶対バレてるじゃん...!
...決めた、そんなに言うなら次会うまでになんて言わず今日すぐに...今夜野営したときに告白してやる...!)
そう決心した。
「よし、行こうカイル」
決心したら、私はキリッと冷静な顔になった。
「...おお...!」
カイルはそれを見ると、にかっと嬉しそうに笑った。
-第3章『牧場と偶像とテレポート』完
^ivi^[Thank You For Reading!]
3章を最後まで見てくださってありがとうございます!!!