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3-49 アイドル魂と揚物の魔神

夜。

会場から帰り、ロスヒハト牧場の家屋。

ベルと私とアズアズの3人で一つの部屋に集まって話していた。


「なんて言うか、思っちゃったんです。

アンコール前に話してる時、私、とんでもない宗教の教祖になっちまった...ッ!!!って。


だからきっと、今後アイドルを広めることができたとして、あの時の私と同じように『これ胡散臭い宗教じゃ〜ん?』って言う人、出てくると思うんです。


だけど...もしそんな時がきたら誰かに、アイドルの代わりになる新しい希望(シンボル)を作って欲しい。

そう、思うんです。


それができなくなった時...ただ誰かが作ったものに悪口を言うだけで満足して、それを超える物を自らの手で生み出そうとするのを諦めた時...その時こそが、人間の終わりかもしれません...」


ベルは重々しく言ってしまったと思って、付け足した。


「なんて、悪の大魔王みたいなこと言っちゃいましたね...」


するとアズアズが言った。

「ベル、最初にも言ってたものね。

宗教的慣習が形骸化して希望を失いつつも-」


「『いまどき宗教なんか怪しくて信じらんねーぜ』『俺は宗教なんか興味ねえんだよ』」

私が挟んだ。


「-と、見下してしまうのが現代人の性...そんな今だからこそ、迷える民衆たちには新たなシンボルが必要なんです...って。」


「...はい!2人とも、憶えててくれたんですね!

...というか、2人ともよく憶えてましたね...すごい...」


「そりゃもちろん、ベルの話だもん。」

「人に印象を残させる...そういう才能があるわ、あなたには。」


ベルは首を振って私とアズアズを見ると、俯いて、そして顔を上げた。


「...なら、自信持って広めていけます、歌って踊る"アイドル"の存在を。


そして、自分や誰かにとっての希望を綴り広め作り続けるという"アイドル魂"を...!」


ベルは言った。


「それじゃあ改めてですが...今回のライブでは、本当にありがとうございました!」

ベルはとびきりの笑顔で感謝を伝えた。


「こちらこそありがとう、ベル。アズアズもお疲れ様。」

「お疲れ様。ふふっ、ベル、その言葉、今日で一体何回目かしら。」


...


深夜。

みんなが寝静まった中。


変な時間に起きてしまった私は、本棚から『揚物の魔神』という本を手にとった。


初めて見るローネ小説だ。

深夜に読むのは少し間違いだったような気がするがつい、するすると釣られるように手にとって読んでしまった。


田舎からやってきた主人公の女の子が、揚げ物料理の才能で都会を沸かせる系のお話らしい。


『サディスティーナ=セスプリン王女殿下、お初にお目にかかります。


わたくしは本日より宮廷料理人の任を賜りました、ブラスタルタール・ルアーニアーノ・キチンドフライと申します。』


『うむ、名前が長い!

閉鎖された村特有のヤバい意味がたくさん詰まってる名前だな!

下手にばかにすると呪われそうで怖い!


だが、それもいい...っ!


(わらわ)は人をあだ名で呼ぶのが大好きなのだっ!!


今日から妾はお主のことを"タルタルちゃん"と呼ぶからな!!!』


『(え、ええ...)』


私は本を机に置いた。


「...アズァ...カットのこと、アズアズって呼ぶのやめるか...」


人をあだ名で呼ぶ人など、この世にいくらでもいるだろう。


だがしかし、この本を読んだばかりの私は"○×○×"というあだ名の付け方でどうしてもこの『サディスティーナ=セスプリン王女』が頭の中でちらつき、果てには躍り出してしまうのだ。


さらには、タルタルちゃんの髪色が白髪で、王女の髪色が金髪なこと。それも連想の拍車をかけた。

昨日夕方に髪色の話をされたばかりだったから、尚更そこが目についた。


こんなふうにローネ小説と現実を混同することは、今まで私にはなかった。


しかしサディスティーナ・セスプリン王女だけは、私の頭の中に干渉してきた。


(フッフッフッフッフッフッ...!!!さあ、妾のように皆にあだ名をつけまくるのだ...!!)


(いやだっ、やめろおおおおおおおおおお!!!!!!!)


「テラ...ステラ...起きなさい、ステラ!」


「あっ、あえ...?」


「何寝ぼけてるのよ。最後に牛さんたちの世話をしておこうって言ったのはあなたじゃない。」


「ああ、ごめん、すぐ支度するね!アズ-」


「?」


「アズ......ア...アズァ..................アズカット」


「何よ、変なの。今更改まっちゃって。

別に普段通りアズアズって呼べばいいんじゃない?」


「うっ...アズアズ〜!!!」

私は泣きながらアズアズに抱きついた。


「や、やめなさい!よだれが付くじゃない!?きたないっ」


後から考えたらこの時の私は、ベルと離れるのがちょっとだけ寂しかったのかもしれない。


...


それから牧場の仕事を素早く、だけどじっくり目に焼き付けて、終えた。

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