3-47 後夜祭②
「騎士さま、騎士さま!」
振り返ると、幼い少女がいた。
「騎士さま、みんなを守ってくれて、ありがとうございます!」
慌てて手錠を隠すと、彼女は首を横に振った。
「...いや、私は何も...」
"騎士さま"は申し訳なさそうな表情で私の方を向いた。
私は生暖かい目の笑顔で返した。
「ううん、わたし見てたよ、突進してくるこわいのを止めてくれたの。
一番最初に出て行って、かっこよかった!!」
私は「ヒューヒュー!」と口笛を鳴らす。
すると幼い少女も真似して口笛を鳴らそうとする。
しかしうまく鳴らなかった。
すると別のところ方やってきた幼い少年が口笛を鳴らした。
少年が「へっ」と得意げに言うと、最初の少女はむっとした。
「騎士さま、俺も近くで見てたけど、すごくカッコ良かったです!
オレを弟子にしてください!」
「いや、わたしも!」
「ぼくも!」
「じゃあおれも!」
子供たちが群がってきた。
彼女はもみくちゃにされた。
私はその様子を眺めながら、もらってきたシチューのおかわりを飲んでいた。
「あの、私は確かに王国騎士団員だけど、位がある人じゃないと騎士とは呼ばれなくて...だから"騎士さま"ってのは」
「なら...騎士のお姉ちゃん!」
最初の少女が言った。
「あの、わたしのお名前、ドロワって言います!
騎士のお姉ちゃんのお名前を教えてもらえませんか!」
幼い少女は勇気を振り絞って聞いた。
「......ありがとう、ドロワさん、でもね...」
彼女は、にやけ顔を隠しきれないまま言った。
カッコつけたポーズをとって...
「ふふっ、私は名乗るほどのものじゃあありませんよ...」
「か、かっこいい...!」
「ふふっ...!」
「帰るぞ」
「わあっ!?」
彼女の後ろに騎士団長がいた。
「あ、いたあ!」
女性が駆け寄ってきた。
それは少女の母親だった。
「どうもすみませんうちの子が。
みんなも、騎士団の方々は忙しいんだから、あんまり困らせちゃだめだからね?」
他の子供たちはとぼとぼはけて行った。
「いえ全然、問題ありません。
嬢ちゃん、俺は-」
「名乗るほどのものじゃあないぜ...ふふふっ」
女兵士が小声で呟いた。
「王国騎士団団長ケンタウロス・ノーザレアス・バンブーだ。覚えといてくれ。」
そう言ってケンタウロス・ノーザレアス・バンブーは自分の名前を書いた紙を渡した。
「ええっ!?」
彼女は驚く。
私はその様子を見て吹き出しそうになった。
「すごい...名前ながい...!!!」
「ちょっと失礼でしょ!ノーザレアスってすごい偉い人の家なんだからね!?
すみません、うちの子何も知らなくて...」
「いえ、心配しなくても大丈夫です。
あんまり広まってないんですけど奥さん、実はノーザレアス家ってとっくに没落・壊滅してまして。
だから私はただ趣味で長ったらしい名前を...たまたまノーザレアスを名乗っているだけなんです。」
「は、はあ...?そうなんですね...それならよかったです...」
少女の母親は困惑気味に言った。
少女はキラキラした目で"騎士のお姉ちゃん"を見つめていた。
「...私の名前はマナ・トラップです。憶えられますか?...ドロワさん」
マナは精一杯凛々しく言ったのだろうけれど、少し照れが隠し切れていなかった。
「おぼえました!マナ・トラップ...マナ・トラップ師匠!
わたし、将来必ず王国騎士団に入ります!」
ドロワと母親は去っていった。
その様子をホワイトシチューを食べながら見ていた私に、趣味でノーザレアスを名乗っているおじさんが話しかけてきた。
「S級指名手配犯ステラ・ベイカー...罪状は2度の殺人。1人目は西司教。2人目は我が王国騎士団員。」
老騎士は私をみて言った。
「可能、ではあるだろうな」
「だから、逮捕を...」
マナが言った。
「しない」
「ええっ!?」
「帰るぞ。お前は先に他の団員と合流して点呼をとっておけ。おれもすぐに行く。」
「はい...!」
マナは去っていった。
そしてケンタウロス・ノーザレアス・バンブーは私を見て言った。
「...あんたは自分とあのベルの他に、地毛が金髪の人間は見たことあるかい?」