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3-45 エピローグのようなプロローグ

『キットナイト>カット<アンドライト』、そして真のデビュー曲『ヒカレ!マイペースメイカー』を歌い終えたアイドル・ベル。

彼女は全ての観客へ語りかけた。


「今日はこのライブに来てくださって、ありがとうございます!

突然いつもと違うことをして、最初は戸惑った方もいると思います。

途中でアクシデント...不慮の出来事もありました。

ですが...ここにいる全ての皆さんが協力してくれたおかげで、今無事に話すことができています。


そして何より...今、キモチがとても...楽しいですよね!!!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

大歓声、そして拍手、中には陽気な口笛を吹く音も聴こえた。


「皆さん、アイドル・ベルのライブは楽しかったですか!?」


さっきの2倍、いや3倍、うるさかった。

でも今度はただの歓声じゃなく「楽しかったよー!ありがとーーー!」という声とか、幼い少年少女が口笛を真似している姿とか、さっきよりも解像度が上がって見えた。


「あと、皆さんに言わなきゃならないことがあって...」


ベルは言った。


「私、旅に出ます!!!このパローナツの全ての土地に、アイドルのことを広めます!!!」


「おお」という詠嘆。その後に「えっ」という困惑。


「だから今までみたいに週に1回休息日に歌いにくることはできないけど...」


ざわめく会場。


だけど...いや、だからこそベルは続けた。


「この世界のどこかでライブをするたびに...その音を皆さんは聴くことが出来ます!!!」


「えっ?」「どうやって...?」

「すげえ...」


ざわめく会場。


「皆さんお気づきでしょうか!?

会場の至る所に、綺麗な鏡が設置されていますよね!

そこからも私の声が聴こえていることに!!!!」


「ほ、本当だ」

「ベルの歌声が元から雄大で、気付かなかったよ...」

「すご...じゃなくて、さすがベル、私はこれくらい気付いてたんですけど!」

観客たちは口々に言った。


「それはこのライブを実行するために協力してくれた、偉大な魔法使いの1人が作り出したものです。

彼女に今一度盛大な拍手を!!!」


盛大な拍手が起こった。


「偉大だって。」

「ふっ」

ポルテナ・エルポーニは得意げに鼻の下を擦った。


「私がライブをする日に、彼女が町のいつも私が歌ってた場所に来て、私の歌ってる音を流してくれます!!!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

また大歓声、そしてまた拍手、中にはまた陽気な口笛を吹く音が聴こえた。


「.........。」


「そしてっ!

他にもたくさんの方々の協力があって、今回のライブに至りました。

彼ら、彼女らにも感謝として盛大な拍手を送らせていただきたいと思います。

どうか皆さんもご一緒に盛大な拍手をお願い致します。拍手っ!」


盛大な拍手が起こった。


「そしてそしてっ!!!

先ほどお話ししたように、ライブ中の魔法・その演出方法・私が今来ている衣装も、それを作り生み出してくれた方がいます。

皆さんが住んでいるおうちも、着ている服も、毎朝配球缶に自動支給されるペースト食も全て、実は作っている方がいるっ!!ということですよね...!!?」


「確かに、言われてみれば...」

「考えたこともなかった」


「ふっふっふ...そこでそこでそこでっ!!!!

私がいつも歌う時に持って来てた牛乳やチーズ、美味しいですよね...。

あれ、誰が作ってるか気になりませんか?」


「気になるうううううーーーーーー!!!!!!!」

「教えてくれええええええーーーーーー!!!!!!」


「ここから山を登っていった先に、ロスヒハト牧場、という小さな牧場があります。

少し静かな場所で...でももし牧場が賑やかになったら賑やかになったら...私、嬉しいです。

だから...ぜひ、足を運んでいってみてくださいっ!!!」


「絶対行くううう!!!!」

「うおおおおおおおお!!!!!!」

「うわああああああ!!!!」

「ウホホッほほほおほほほほ!!!!!!!!」


「あんまり賑やかすぎると牛さんや羊さんたちがびっくりしちゃうので、静かにね!静かにお願いします」


ベルは「こほん」とわざとらしく咳払いをした。


「最後に...ライブで、歌をもう1回だけ聴きたいってときに言う、合言葉があるんです。

皆さん...いいですか?アイドルがここを去ったら『アンコール』って言ってください。

『アンコール!アンコール!』って、繰り返し叫ぶんですよ!いいですか?」


そう言ってベルが舞台裏に去ろうと後ろを向くと...


「アンコール!!」


「まだです、まだ早い」

ベルは笑いながらそう言った。


それから、ベルが舞台裏に去った。


数秒。

観客たちは、そのタイミングを掴めずにいた。


「アンコール!アンコール!」

1名の声が響いた。


観客たちは顔を見合わせる。

「アンコール!アンコール!!アンコール!!!アンコール!!!!」


そうしてアイドル・ベルはステージに戻って来た。

彼女は最後の『ヒカレ!マイペースメイカー』を歌った。


でもそれは、人生の最後とか、運命的で深い意味があるわけじゃない。

今日のライブの最後。たったそれだけだった。

これから始まる大きな大きな旅の、絶対的に大きくて相対的に小さな最初の一歩。

彼女の夢の、最初の1ページ目。


エピローグのようなプロローグだ。

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