3-44 既知と未知のミックスオーレ
「光さすその場所目指すたびに
私の鼓動は暴れ牛みたいに叫んでる」
間奏が終わり、また歌い出す。
ステラとカイルはコチジーヴァルの方へ向かっていく。
無数の触腕が、向かってくる二人へ襲い掛かる。
「私が光った時間」
ステラは水石を手に握り、炎魔法を出した。
水が溢れ出てくる。
水を外側から風魔法で成形し、僅かな氷魔法で軽く固定。
そして風魔法で水の刃を拘束回転させる。
そうしてできた回り続ける高圧の水の手裏剣が、触腕を切り裂いていく。
「またキミに惹かれた時間」
カイルは刃物を投擲しながら突進していく。
そこにステラが炎魔法を付与する。
何枚もの刃が炎の曲線を描き、触腕を切り落としていく。
「歴史は刻々と進んでいくけど」
振り回していた右の豪腕がカイルに振り下ろされる。
飛んで避けたカイルだったが、その衝撃から空中で体がよろめいた。「カイル!」
地面に激突するであろうカイルの姿勢をステラが風魔法で補助する暇もなく、
衝撃で巻き上げられた土煙が辺りを覆った。
その直後、コチジーヴァルは物凄い勢いで会場へ突進を始めた。
「もっと歌いたいもっと笑顔にしたい
何があってもそのキモチはずっと同じなんだ」
観客席の最後尾は、王国騎士団員たちが守っていた。
「止めましょう」あの新兵がそう言った。
「鼓動の鐘が高鳴っていく」
あの巨体に一人で耐え切れるわけがない。
それでもやるしかないと覚悟した。
観客たちから離れたところまで急いで進み、盾を構え、踏ん張った。
するとそこに魔物たちが寄って来た。
他の王国騎士団員たちもだ。
「怖いかも
その気持ちもきっと楽しみになる」
新兵の正面に、縮地でもしたかのような速さであの無骨な鎧が駆けつけた。
突進。それは止まった。
「だって私は歌って踊る人…そう、アイドルなんです!」
鎧は力を込める。
他のみんなも一緒に、コチジーヴァルの巨体を押し返した。
そしてコチジーヴァルの左右、土煙の中から、ステラとカイルが現れる。
その時カイルは包帯が解け、白い兎の耳のような髪が、流れるようにはためいていた。
「まだ見たことない」
コチジーヴァルがまたあの豪腕を繰り出す。
騎士団長が力を振り絞り、腕を真ん中から切り落とした。
「行け...!」
「歴史の1ページへと」
カイルが刃物を投げ、ステラが空中に一瞬だけ氷を生成し、それらを踏み台にして2人はコチジーヴァルの周りを回りながら駆け上がっていく。
「踏み出すよ」
コチジーヴァルを切り裂いていく水と炎の螺旋階段。
「私なりの一歩で」
2人は空中まで辿り着いた。
「彼方照らすヒカリへ」
その瞬間に無骨な鎧が砂を噴き出しながら大きく跳び上がり、大剣を脳天へと振り下ろす。
それと同時に、ステラは魔法をステージに向けて放った。
「歩いていくんだ今この瞬間を」
螺旋状に、燃え盛りながら凍てついているコチジーヴァルの体が、大剣によってカットされる。
その様子は間違いなく、綺麗だった。
「ヒカレ!マイペースメイカー」
空の果てまでも届いているであろうその歌声が、会場を優しく包み込み、今、終わりを迎えた。
曲の最後の音とともに、魔法担当が放った魔法によって火花が爆発する。
最初の曲の時は、反応するまでに間があった。
だけどこの時は、火花が爆発して1秒経過していないくらいの僅かな時間で、拍手や歓声の音が大きく響き渡った。
会場は喜びと興奮と笑顔で溢れていた。
それは、アイドル・ベルが観客たちに完全に受け入れられたことを意味していた。