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0-7 こぼれがちシチューディナー

夕暮れ時。

あの後俺も同席させてもらい、シチューをいただくことになった。

遅めの昼食兼夕食。


真っ白なホワイトシチュー。緑色の草や小さな肉っぽいものが入っている。

器の取手に前足をかけ、ゴクリと飲んだ。


「うわーこぼれてる!」「あんた赤ちゃんなの?」「はっはっはっはっ!いい飲みっぷりだ」


口の横から少しシチューが溢れる。

口の横をすぼめる感じにして気をつけて飲んだつもりが、どうしても溢れてしまう。


「歩き方が変な奴はシチューの飲み方も変だ。ってことわざ、本当だったんだな...」

タウロが呟く。


味は...うまい!わずかな塩味と甘み、そしてミルクの味のする()()ホワイトシチューだった。

しかしどうやって作っているのだろう。ミルクはどうやって手に入れているのか...


気になった俺は、即興のジェスチャーでなんとか聞いてみる。


「ぐるぐるー!」俺のかき混ぜるジェスチャーを真似するサブロ。

「シチューの飲み方が変な奴はいきなり変な踊りをする...」ぶつぶつと呟くタウロ。

「シチューをどうやって作ったか知りたいんじゃない?」パーパにそう言うジージョ。賢い。


「材料はお好みの草と、ウサギとか鳥なんかの小動物の肉、それらを一口サイズにちぎって、

ミルク草と一緒に水を入れた鍋に放り込むんだ。そうして火にかけて煮込んだらシチューの完成だ。」


ミルク草...そんなものがあるのか。

便利アイテムすぎてゲームではないかと疑いたいところだが、ここまででのことで、彼らは本当に生きているのだと俺は信じるほかなかった。


「あの…私、学者になりたくて…」

唐突にジージョは話し始めた。


「あの巻物見て決めたばかりなんだけど…

マミアを絶対に生き返らせるし、それに...いつかきっと、あんたの体も直すんだから!」


俺の方を向いてそう言った。...なんていい子なんだ!

いつになるかはわからないが、その時を楽しみに待っていようと思う。


夜。

俺は彼らの家の、いわゆる屋根裏みたいなスペースに泊めてもらうことになった。


転生初日。怒涛の1日だった。

今日あったことをもう一度思い出す。


「だから、あいつの鼻っ面を噛みちぎってでも目を覚まさせたい...協力してくれないか?」


タウロははじめ、俺にそう言った。

だけど、俺は何もせずに見ているだけだった。

俺が何もしなくたって、彼らだけで問題は解決された。


部外者の転生者である俺は、彼らにとって必要のない存在だった。


...だけれど、俺にとっては彼らは必要な存在だった。

溺れている俺を助けてくれた。

四足歩行の仕方を教えてくれた。

フォレストオオカミの価値観を知ることができた。

生きている『家族』というものの姿を知ることができた。


俺はこの1日で、いろんなことを知ることができた。

記憶喪失の俺にとって、それはもう充実した時間だった。


明日はどんなことと出会えるだろう。

今日みたいな過激なハプニングがなくたって、植物や動物のことを知ったり、パーパが言っていた禁じられていた巻物のことも気になるし、オオカミとして生きていくための基本の四足歩行すらまだマスターしていない。


そんなふうにやることはまだまだたくさんある。

あの神様が言っていたような〈冒険をするにはもう遅い世界〉なんてことはなさそうだ。

-ネコニスさま...

次彼女に会うのは当分先になりそうだ。...なんなら次死んだ時もう俺には転生のチャンスはないかもしれないし、そうしたら二度と会うことはないのかもしれない。


<LifeSpan60%>


寿命は回復も減少もしていなかった。


俺は目を閉じた。

意識が落ちるとともに、視界にうつっていたアイコンや文字も消えていった。

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