表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/124

3-37 観客席からステージへ①

「それじゃあ、早速次の曲行きますっ!」

ベルの声が聞こえる。


舞台裏で音響担当が自身のキューブに素早く詠唱する。


カワイイ音楽が流れ始める。

観客たちは曲の弾みに乗っている。


ステラは、柱の上で小さく頷いていた。

(ベルの言った通り、最初の曲で観客をみんな虜にできたみたい)


「うっぐぐぐぐぐぐ」


「...。」

魔法担当は音の方に目を向けた。


鳥の魔物が、呻き声をあげんとしていた。


テンションが上がりすぎて舞い上がってしまい、周りの迷惑になる人が出ることもあるだろう。

そういう状況も想定していた。


魔法使いは片手に緩やかな風の球を作り出した。

巡る風の球体をうるさい口に挿入して、対象の声が周りに聴こえない状態にする算段だ。


迷惑客はいくらでも騒げる、しかし周囲の観客はそれを聴くことなくベルの歌声を楽しむことができる。

これはウィンウィンである。


魔物の横にいた男が異変に気づく。

男は鳥魔物の肩を揺らして「お前、どうしたんだ!?大丈夫か!?」と声をかけた。


「うっ、ぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!!!!!.........」

魔物の声が大きくなりかけたところで、風球が口に入った。


魔物の呻き声が聞こえなくなって、カワイイ曲の音だけが聴こえるようになった。


「............ぐ」


また、魔物の呻き声が聞こえてきた。

右手で舞台(ステージ)側の魔法の準備をし、左手で風球をー


「ぐ...」「うぐぐぐぐぐぐ」「ぐ」「ぐ」


手のひらに作り出した風球を親指に移し、残りの指の上にも風球を作りだす。


「ぐ」


場所を確認し、風球をそれぞれに飛ばす。


「うぐ」「うぎゃ」


さらにもう一度生成する。

(なにか...)


「ぎゃがぐがががっ!!」


あちらこちらで魔物が呻き苦しみだす。

(明らかになにか、問題が起きてる...)


風球を飛ばすけど、明らかにそれ以上に呻きの数が増えていく。

それに、口を封じただけじゃ意味がないような...何か別の問題が発生しそうな不愉快な予感が肌をつたい始める。


いつでも対処に行けるように、柱の上で立ち上がる。

その最中、焦らないように、なるべく心を落ち着けて、右手に炎を保ち、左手の全指で風球を生成しては飛ばし、生成する。

そして足にも風を纏う。


舞台を見る。もうすぐ歌い出しだ。


魔法担当が柱の上で完全に立ち上がった、その時。


爆音が耳をつんざいた。


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「うぎゃががぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐががががががが!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


叫びとともに、魔物たちは暴れはじめた。


開幕、鳥の魔物が隣にいた男を突き飛ばした。

そしてそのまま、他の客に向かって走っていく。

舞台(ステージ)に飛ばすはずだった炎球を鳥魔物に向ける。

鳥魔物が女性客を殴ろうとする、寸前の二歩手前といったところで、男が鳥魔物を羽交い締めにして止めた。

「おいっ、どうしちまったんだよおおお!?!?」

魔法使いは炎魔法を打つ手を下ろした。


「きゃああああああああ!!!!!!」「うわああああああああ!!!!!!」

混乱。


周りを見渡す。

足にかけた風魔法で加速して、その最中に係員の上着(スタッフジャケット)を脱ぐ。観客に飛びかかる小さな栗鼠(リス)の魔物を、ジャケットで(くる)む。


着地。


「危ない!」

そこにいた観客が叫んだ。

前と後から、栗鼠魔物が魔法使いの顔面目掛けて飛びかかってきていた。


さっきまで一緒に楽しんでいた相手に向かって、炎を発射しなければならない。

覚悟して炎の球を二つに分けたその時、目の前にポルテナが現れた。


彼女が鏡を構えると、リスはその中に飛び込んでいった。


ポルテナが振り返ると、魔法使いは何も言わず、既にリスが一匹入っている係員上着を柱に向けて一瞬開いた。

装飾に設置しておいた手鏡からリスが勢いよく飛び出し、ジャケットの中に飛び込んだ。


魔法使いは素早く二匹のリス入りジャケットを縛る。

するとリスは暗いところが好きなのか落ち着いて動かなくなった。


後ろでは、メルネがリスの脇腹を捕まえていた。

「おーっとっとっと、はーい暴れない暴れない」

リスは暴れてメルネの手を噛もうと首をぐるんぐるん暴れさせているが、しっかりと掴まれて届かない様子だった。


「二人ともありがとう」

魔法使いはやや早口に言うと、周囲を見渡して状況把握に取りかかった。


(鳥系、陸上にいるのはほとんどが小型の魔物。

逃げ惑う観客のたちの中で、すべての魔物が呻き声をあげて苦しんでる。

でも暴れている魔物は一部で、その場でただうずくまっている魔物がほとんど。


今のところ暴れてる魔物のいくらかは、巨体の()()が食い止めてくれてる。

ベア自身も魔物のはずだけど、他の魔物たちと違いどうやら正気に見える。


そして突如現れた王国騎士団所属の兵士たちも、観客たちを避難誘導してくれている...こんな森の中にこんなに大勢いるのは、私を捕まえにきて待機してたってこと...?)


視線を動かしたその時。

ベアたちの頭上をうろうろと蠢く、白いもやが見えた。


それは明らかに、最初の曲の演出で出した煙の残りでないことが、星眼の魔女の瞳には見えた。


(あれは...ゴースト・ガバーン!?)

^ivi^[ネコニス'sTips]

ノーザランフォレストチャコリスは、パローナツ北部の森に生息する茶色い小動物です。かわいい。

芸術志向で、なんと木の皮を爪で引っ掻いてお絵かきをするんです!かわいい...

暗いところが好きで、木の幹の高いところや切り株の下に穴を作ってそこを寝床にするんです!かわいい!!!

...ごめんなさい。テンションが上がってしまって。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ