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3-35 行状【王国騎士団員視点】

草の隙間から覗くと、遠くから大勢の人たちが歩いてきていた。

そしてその全員が怪しげなフード付きローブを羽織っていた。


「まさに邪教団って感じですね...」


兵士は望遠鏡を取り出し、先導している吟遊詩人の詳細な姿を確認した。

帽子で顔はよく見えないが、はみ出している髪の毛は間違いなく金色だった。


「金髪...あれが星眼の魔女...ゴーシュ先輩の仇...!」


「待て」

勢いよく飛び出そうとする新兵を、団長は止めた。


「まさか団長、綺麗な歌に騙されてませんよね?相手はSランク指名手配犯ですよ」


「まだ何も起きてないだろ」


「何か起きてからじゃ遅いんです。

あの大勢の人たちだって、洗脳されて操られているだけなんでしょう?

集められて今から殺されるのかもしれない、早く解放しないと—!」


「解放ってのはそれこそ邪教っぽい言葉選びしてるぞ、今のお前」


それを聞いた新兵ははっとして、離れようと暴れていた身体を止めた。


「もしあれがステラ・ベイカーじゃないただの他人の空似だったら、責任取れるのか、お前なら。

何もしてねえ奴を噂話だけで悪人だと決め付けて殺して、

それで後から人違いでした、犯罪者と似てたんですすみませんで通るわけねえだろ。


...今時王国騎士団にそんな権力はない。」


「....ごめんなさい。私一人で突っ走っても意味がないですよね。

作戦通りにしないと、犯罪者が野放しになって、また誰かが死ぬだけになる...それだけはいけません。」


兵士はすぐに望遠鏡を覗き込んだ。


雨は頭上の枝葉が遮っているものの、べたつく雨水に似つかわしい、辛気臭い空気になった。

それに耐えかねて、老騎士は口を開いた。


「...そもそも...ゴーシュ・イスクは本当に殺されたのか?


少なくとも俺の知る限り、カイル・リギモルは何でもするが、人殺しはしないし、させない。

俺の知ってるカイル・リギモルならの話だが...」


「団長、先導者を見失いました...」

兵士は素早く言った。


残骸は遺るものの、大部分はただ草が生えているだけのだだっ広い空間が、

怪しげなローブの人々で埋まった。


「俺もだ。だが、」


民衆は消えた先導者を探すのに夢中になって皆辺りを見回しているが、

少し離れた位置にいるこちらには未だに気がついていない様子だ。


「ローブの連中も見失ってる。

見失ったんじゃない、()()()()()()消えたんだ。」


その時、ヒュ〜っというとぼけた音とともに次々と火の玉が上がり、上空で音を立てて弾けた。


兵士たちは警戒し、すぐさま音の方向へ目を向ける。


そこは広場中央前方の<舞台(ステージ)>だった。


煙とともに軽快な音楽が鳴り響き、その(シルエット)が浮き出てくる。

煙の中から現れたのは、あの吟遊詩人の姿をした先導者だ。


「みちゆけ—」


『勇者臨書 第6章』より『凱旋の歌』。その最後の一節を、吟遊詩人は歌い切った。

その場で見ている全員が一点に釘付けになっていた。


しかしもちろん隠れている騎士団員は......少なくとも一人は、その場全体を見ていた。


ただ楽しげなだけの、何も起こらないような演出がされていたとしても、その影で企みが行われているかもしれない。

誰も企んでいなかったとしても、偶然にも、不幸か奇跡か、思わぬ何かが起こってしまうかもしれない。

その時のためだけに、この戦争がない平和な時代に、今後一生使うことのないかもしれないこの剣を今日まで愚直にも磨き続けてきたのだから。

もちろん、力を振るわず済むに越したことはない。


しかしもし、もしもまた何かが起こってしまうのなら。今度こそ、自分がそれを防がなければならない。


会場は興奮とも言えぬ謎めいた雰囲気のまま、沈黙が流れる。

その空気が覚めぬ間に、舞台上の人物は自身の服に手をかざし、そのままぱっと脱ぎ捨てた。


驚き、悲鳴、歓声が上がる。


そこには見たことのない装束に身を包んだ、先導者の姿があった。

行状:人の普段の行い。品行。身持ち。

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