3-33 天井【謎の少女???視点】
2-11で謎の少女???として登場した人物の視点です。
前話(3-32)で、まだベルや町の人たちが会場に到着してない頃の話です。
「全くもう、何でこのわたしがこんなところで隠れなきゃいけないわけ?」
バレないように、小声で呟く。
曇る真っ白な空に、湿った香りが漂う。
今はまだ静かな会場を囲う森の、草むらの陰にぽつり、少女は一人隠れていた。
「やけに静かだけれど、本当にここにステラ・ベイカーやカイル・リギモルが現れるのかしら...?」
そう言い終えた瞬間、少女は何かに気付き目を見開いた。
「はっ...!ああっ!ううん、違うの!違い...ます!ごめんなさい!疑ったわけじゃないんです!違うんです!
わたしゴースト・ガバーン様を疑うなんて...いや違う、疑ってない...です!
とにかく、わたしはなんて非道いことを!ばか!まぬけ!しんじゃえ!」
それから少し間を開けて、息を吐いて言った。
初めは落ち着いた口調で。
「...わかっています、ゴースト・ガバーン様は嘘をつかないって...
ゴースト・ガバーン様は、私を産んだくせに全部奪ったあいつらとは違う」
少女は少しの間怒りに震えていたが、ふと先日起こったことを思い出し、笑みを浮かべた。
「そういえば...あの洞窟の時もそうでしたね...
蜘蛛ちゃんを強くしてあげて復讐を教えてあげた後で、また洞窟に行ったとき...」
〜〜〜
ノーザランのとある洞窟にて。
真っ暗な洞窟の中でも、しばらくいると目は慣れてきて、段々と色が見えてくる。
少女がに足を踏み入れると、そこは緑色の濁った水で浸されていた。
靴に水が染みて、心地いいと気持ち悪いが混ざって、わけのわからない感情になる。
歩いていくと、つま先が物体に触れた。
もう慣れた目でその場を見ると、ぐちゃぐちゃに腐った蜘蛛の肉が転がっていた。
少女はしゃがんだ。
手で触れると冷たかった。
すると震える声色で言った。
「なんで...何で死んじゃうの...本当にあんなやつなんかにやられるなんて...
...雑魚。
ありえない弱すぎ。雑魚、ざこざこ、ざあ〜〜〜〜こ!!!!!」
少女の拙い大声が、洞窟の壁を木霊した。
「ゴースト・ガバーン様は生きてるって言って...じゃ、なくて!ええと、おっしゃしゃってた?のに」
立ち上がり、そう呟いた時だった。
少女の顔に冷たい滴が衝突した。
水が跳ねたのだ。
「んっ」
少女は当たりを見回した後、蜘蛛の方を一瞥した。
少し見ていると、死んでいるはずの蜘蛛の脚は奇怪に蠢き始めた。
「わあっ!?」
少女は驚かされ、尻餅をついた。
蜘蛛はぐにょりぐにょりと起き上がった。
「...生きてたのね」
それは、溶けかけの瞳で少女の姿を捕らえた。
少女は汗を垂らしながらも、口を笑わせて立ち上がった。
「また強くしてあげる、だから私にもう一度忠誠をちかって」
手のひらを前に突き出し、蜘蛛に触れようとした。
しかし、蜘蛛は彼女を睨んだまま微動だにしなかった。
「?」
少女は首を傾げた。
「......あっ」
気がついた。
目の前の蜘蛛からは意識を感じ取れない。
ただの肉の抜け殻で、中身は虚無であることに。
これ以上干渉しても無駄だと気づいた少女は、手を引っ込めようした。
だけどもう遅かった。
その瞬間に、蜘蛛は這い寄り、最前の脚で少女の手をはたき落とした。
「痛い...っ!」
少女はわけがわからなくて、泣きそうで顔が熱くて、頭の中がこんがらがる。
怖くて、視界も潤んで、何も聴こえない。
だけど蜘蛛は腹から喉へ、何かをせぐりあげるように顔をうねらせた。
そして牙を覗かせる口から、紫色の何かが溢れそうになっている。
その時だった。少女の眼には、白くたなびく何かが見えた。
何が起こったのかは少女にはわからなかった。
紫色の液体が彼女を避けるように、両横に撒き散らされた。
水に液体が接触すると同時に、無数の煙が立ち上っては消え、その度にぷしゅーっと音を立てた。
数秒後、蜘蛛の巨体は左右に横に倒れ込み、緑の汚い水は大きな音を立てて跳ねた。
白いそれは、少女の方へ振り返った。
ぼやけた視界でもこちらに駆け寄って、優しい声で何か言っているのがわかる。
でも少女は驚きで疲れてしまい、気を失った。
〜〜〜
「くふふっ。もしかしたら会えるかも...白馬の王子さまっ!」
少女は少しの間うっとりしていたが、はっとした。
「...いやっ、ちが、違うんです!私の運命の相手はゴースト・ガバーン様しかいません...!あっ、そうだっ、あの時助けてくれたあの方はきっとゴースト・ガバーン様だったにちがいない!そうです、それ以外ありえません!白かったし!絶対そう!」
少女はうんうんと頷き、自分で納得した。
「何を言ってるのかね」
「!?」
突如、後ろから聞き覚えのない低い声がした。
少女は振り返った。
天井:部屋の上部を限る面。物の内部の一番高いところ。