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インフラストラクチャー

 大昔も昔、メンタルをやられて休職し、気力を失って自宅でただ時を過していており、本を開いても字面を追うこともできない程だった。それでも何か楽しみを見付けようとテレビを点けて海外ドラマを流した。中南米が舞台か思われる大甘のメロドラマで、主人公たちが苦労しつつ、宿敵たちが自滅に近い退場の仕方をして最後は仕合わせになっていく。そんな話を連日観た。まだスマートフォンがなかったし(あったかも知れないが普及はまだだった)、キャッシュレス決済とかバーコードとかもなかった頃だ。ドラマの登場人物たちは皆携帯電話を所有していた。言っちゃ悪いがホームレスに近い生活をしている者も携帯電話を持っていた。日中仕事でそのドラマを知らない良人についその疑問を尋ねた。

「日本と違って何処にでも電話線を引ける訳じゃないからね」

 腑に落ちた。言われてみればそうだった。それくらいの考えもできないくらいだった。

「インフラの差かあ」

 この会話を交わした時代に既に電話の加入権の価値は下がっていたし、あれから十五年以上経過した現在、新たに居を構えるのに固定電話を引かない人たちがいる。生活に必要なインフラストラクチャーは時代によって変化がある。

 人間の体格や生存の条件が変わらないから変化しないインフラもある。

 東日本大震災の折り、在所はまだ被害の少ない方だったが、ライフラインは停止した。水を得る為給水に並んだし、ガスが使えないからストーブやカセットコンロで煮炊きをしたし、電気が流れないから日が暮れれば当たり前に暗い。ラジオで、下水処理場も被害を受けて下水は消毒しただけで海に流すしかないと報道していた。流通もストップの状態だった。

 塩野七生の『ローマ人の物語』の十巻目、「すべての道はローマに通ず」で古代ローマのインフラストラクチャーについて語られた。すなわちローマの土木工事の代名詞の水道と道、そしてソフト面での医師と教師。ローマンロードもローマ水道も作ったら終わりではなく、清掃や補修を繰り返していたんだと説明されている。ユリウス・カエサルの時代に医師と教師は出身地や人種に関わりなくローマ市民権を与えた。公営の病院や公立学校を設立まではいかなかったのは、時代と道徳の違いなのだろう。

 毎年、年度末には道路工事が多くて、役所の単なる予算消化で迷惑しているなんてかつて言われていたが、昨今の出来事を見聞きするに地中に埋まった生活インフラの手入れは大切だよね、といった気分になる方がいるのではなかろうか。

 教育の無償化については必要だろうと考える。ただ公的な教育機関が充実しての私学助成なのかい? とも感じる。

 日本国憲法第八十九条に、


「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。」


 とある。

 私学助成はどのように始まり、どのように憲法解釈されてきたか知らない。憲法改正が行われるならこの条項も書き換えられるのだろう。今更なくせといって肯く人は少なかろう。私学にまったく世話にならなかったと言える人はそうそういない。

 ライフラインの整備が完成したなら完成したで手入れは定期的にしなくては維持できないし、人材の育成はどの分野においても無視できない。

 今でもメンタルの不調に悩まされる自分にできることは少ない。せめて選挙の際には、ベストな人がいなくてもベターな意見を述べる人へ投票しようと決めている。ディストピアはフィクションの世界だけにしたいと願う。

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