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ヨーロッパもののネタ探し

 ヨーロッパ史は専門ではなかったのだけれど、知るのは楽しいです。大分昔、講談社現代新書の『ハプスブルク家の女たち』、江村洋著で、第三章に「ハプスブルク家の「貴賤結婚」」がありました。「貴賤結婚」とは文字のごとく、社会的に身分に大きな隔たりがある人たちが結婚することです。この章の内容は、十六世紀のフェルディナント大公と商人の家庭の出身のフィリッピーネ・ヴェルザー、十九世紀のヨーハン大公と郵便局長の娘アンナ・プロッフルの二組が紹介されていました。また第七章は「命を賭けた「帝冠と結婚」」でフランツ・フェルディナント大公と大公妃ゾフィーと、これもまた貴賤結婚の話でした。フランツ・フェルディナント大公は第一次世界大戦の引き金となったサラエヴォ事件で命を落とした人物です。十九世紀、フランツ・ヨーゼフ皇帝の息子はマイヤーリンクで亡くなり、男子の後継者が必要と模索が続き、年齢や人柄から皇帝の弟の息子が皇太子に決定されることになりました。当のフランツ・フェルディナントは意中の女性と結婚したいと願いました。相手はボヘミア貴族の伯爵家の娘ゾフィー・ホテクで、とても皇太子の身分には釣り合わないと皆難色を示しました。フランツ・ヨーゼフ帝は皇位に就くにはそれに相応しい皇妃を娶らなければならないと甥に言うものの、フランツ・フェルディナントは「帝冠も結婚も」と主張しました。

 フランツ・フェルディナント大公の話は、これまた大昔にNHKの『その時歴史が動いた』でも放送され、松平定知アナウンサーがあのお声で「皇位も恋も」とか、言っていた記憶があります。

 フランツ・フェルディナントは皇太子となり、ゾフィーと結婚したものの、ゾフィーは公式の場で夫と別の席に座らされ、この結婚で生まれた子どもたちに帝位継承権が認められないなど決めさせられました。(大公は時間を掛けて解決しようとしたようですが、先にテロで斃れてしまいました)

 王侯貴族の身分差のある結婚って歴史に残っているところを読むと結構つらいものなんですねえ、としか言えません。それでも貫こうとするところ、後世の異国の庶民は全くの外野なのでうっとりしてしまうのです。

 で、『ハプスブルク家の女たち』の主要参考文献がぜ~んぶドイツ語の本ばっかりなのですが、一つ、日本語に翻訳されているのが判ったので、図書館のレファレンスサービスを使って借りてみました。『ハプスブルク愛の物語 王冠に勝る恋』(ジクリト゠マリア・グレーシング、江村洋訳、東洋書林)に、フェルディナント大公とフィリッピーネ・ヴェルザー、ヨーハン大公の娘アンナ・プロッフルが載せられています。フランツ・フェルディナント大公とゾフィー妃は『ハプスブルク愛の物語 悲しみの迷宮』ともう一冊の方に載っているのですが、今回は借りませんでした。

 フェルディナント大公とフィリッピーネ・ヴェルザーに特に興味があったのですが、やはりこのご本、歴史のエピソードを綴ったもので小説的な面白さがなく、読み物としては江村洋の『ハプスブルク家の女たち』の方が面白かったなあ、とちょっと溜息でございました。ただ、驚いたのが、フェルディナント大公とフィリッピーネ・ヴェルザーの章を読んでいたら、別の貴賤結婚の例が載っていました。ハクスブルク家ではなく、バイエルン公ヴィッテルスバッハ家のアルブレヒトが公子の頃、平民の娘と結婚したとありました。


「百年前のこと、バイエルン公エルンストの子アルブレヒトは、父の意思に逆らって、アウグスブルクの理髪師の娘アグネス・ベルナウアーと結婚したが、そのために娘は君主の命令で生命を失ってしまった。この「売春婦」はシュタウビング近くのドナウ河で溺死させられた。」(引用は『ハプスブルク愛の物語 王冠に勝る恋』、第四章より)


 失礼ながら、こちらに強く興味惹かれてしまいました。日本語版ウィキペディアにもアグネス・ベルナウアーは出てきます。(フィリッピーネ・ヴェルザーは単独で日本語版ウィキペディアに出てこないのに)ウィキの方にはアグネスは魔女裁判にかけられて溺死刑にされたとあります。公子が貴族女性との縁組を蹴って平民と一緒になるのは女性が誘惑したから、女性が悪い、悪い女性は魔女だと公子の父親から言い立てられたのだと読み取れます。フィリッピーネ・ヴェルザーもそうなりかねなかったと著者は言いたかったのでしょう。バイエルン公子アルブレヒトとアグネス・ベルナウアーの結婚はいろいろな面で違って、フェルディナント大公とフィリッピーネとは苦労を重ねながらまずまず仕合わせに暮らしました。

 フィリッピーネは夫に先立って病で亡くなり、フェルディナント大公は二年後に再婚しました。アルブレヒトもアグネスを喪って後再婚して、父の跡を継いでバイエルン公になっています。

 生きていれば寂しさを覚えるでしょうし、これだけの身分の男性が鰥夫(やもめ)になったら、周囲は今度こそ釣り合った家柄の女性との再婚をと勧めるでしょう。現実の生活とフィクションのロマンスは別物です。

 この手の再婚で、男性は前妻との恋がどんな思い出になっているのか、後妻をどのように愛情で接したのか、はたまた体裁と後嗣を得る為と割り切ったのか、何パターンも想像できます。また、後妻に入る女性はどんな感情で結婚するのか、これも想像しだすとキリがなくなりそうです。

 大恋愛で結婚した身分違いの貴族が配偶者を喪い、落ち着いた再婚をした後、結構ややこしい家族関係になった第二世代の貴族の若者たちの物語というのを、大分前に考えたことがあります。その時、題名を『○○の幸福な結婚』として、あらすじをメモしていました。でも、あ、この題名まずい、と気付いて、続かなくなっちゃいました。今後どうなるのか不明です。

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