映画『チャレンジャーズ』
何か映画を観に行かないかと良人に言われて、これはどう? と提案したのが『チャレンジャーズ』で、テニス選手が登場人物で、三角関係ものらしい、との情報しか知らない。俳優さんたちがどんな人かとか、全く知らない。
篤い友情や深い絆が描かれると、描かれようによって、また観ようによって、これって恋愛感情みたいなもんじゃない? と感じる場合がある。ハードボイルド小説の『長いお別れ』とか(わたしが読んだのは清水俊二の翻訳)、イ・ビョンホンが主演の映画『KCIA 南山の部長たち』とか、BLを好まないわたしでも、これは惚れてるんでしょ、惚れてるから辛いんでしょ、と言いたくなる。
『チャレンジャーズ』、女一人に男二人の構図ながら、男同士の方にもおいおいと苦笑せざるを得ない場面が多い。
アートとパトリックはテニスのジュニア大会でダブルスを組み、シングルスの試合でも勝ち進み、決勝戦で対決することに決まった。先に女子の決勝戦があり、パトリックの提案で試合を観に行く。二人の視線はコートの一方に立つタシ選手に釘付けとなり、ほかの観客のように左右に首を振っての観戦にならない。優勝はタシで、その晩のパーティに二人は潜り込み、タシに話し掛け、部屋へと誘う。タシは二人の部屋にやってきた。あれこれ話して盛り上がり、同室の二人の馴れ初めとか、ホントのところの仲は? なんてタシは訊いてくる。真面目で初心そうなアートとやんちゃっぽいパトリックは、十歳から同じテニススクールで一緒。略奪愛は嫌だわ、と言いつつタシは思わせ振りだ。タシを真中に左右にアートとパトリックが座り、代わりばんこにタシとキスをする。タシの首筋に二人はキスし、タシは少し頭を後ろにずらして、三人でキスをし始める。かと思うと、タシは更に後ろに下がってしまい、アートとパトリックは気付かず二人でディープキスを続けちゃう。
気付きそうなもんなのに、気付かないまま、タシはそれをしばらく見詰めた。
「そこまで」
と声を掛けられて二人は離れる。
「連絡先を教えて」
と食い下がる二人に、タシは
「明日の決勝戦に勝った方に教えるわ」
アートとタシは予定通りに大学に進学し、パトリックはプロ選手となった。勝者になったパトリックとタシは交際を続けているが、アートは諦めきれない。大学に訪ねてきたパトリックと、大学のカフェテリアでアートは二人並んでチュロスを食べながら語り合う。パトリックは女子寮のタシの部屋に行って久々にベッドインするものの、途中から言い争いになって、喧嘩し、パトリックは去る。その後の試合でタシは膝を故障し、選手生命を絶たれた。
卒業後、やはりプロ選手になったアートと、テニスのコーチをしているタシが再会し、アートのコーチになる。そこからの流れで、アートとタシは結婚して娘に恵まれ、アートは全英、全仏、全豪で二回ずつ優勝し、グランドスラムを達成するには全米オープンの優勝のみとなっている。
十代のジュニア選手時代から、演者たち自身の実年齢に近い三十歳前後まで同じ俳優が演じ、時間も行きつ戻りつで、一応年代を示すテロップと俳優の髪型で時系列を判断しなければならない。結構ややこしい。
全米オープン前のさほど大きくない試合にアートは出場することになっている。アートは長くスポーツを続けてきた印として、腕や肘に治療や怪我の跡があり、くたびれてスランプ気味というか覇気が失われた様子だ。(アートのスポンサーの一つが錦織圭選手と同じで、ユニクロの服を着ているのが日本人として笑える)タシはアートを支える賢い妻として、健康管理や情報収集に集中している。一方、パトリックはテニスプロを続けているが、全くぱっとせず200位かそこら、クレジットカードを止められて、ホテルを利用できず、車中泊をしたり、マッチングアプリで一夜のお相手を探して、泊めてもらったりをしながら、アートと同じ試合に出場することとなった。
また三人がここで邂逅して、物語が始まる。三者三様、駆け引きがあって、愛情がもつれれて、と目まぐるしい。直喩に隠喩に溢れた場面場面、かれらの心の内は穏やかではない。
ついでにテニスの試合そのものも様々な角度から撮影を試み、通常の横から左右に振る形から、上から地下から、遂にはボールに目が付いたように映される。ボールと一緒に視点が動くと流石に酔う。
一見タシが主導権を握っている。でもアートとパトリックしか知らない事柄があり、コートで向かい合えば、タシの存在は遠くなる。
さあ、存分に打ち合え!




