Design for Living
映画『生活の設計』の内容に触れます。
良人と映画『チャレンジャーズ』を観に行った。テニス選手の話で、男性二人と女性一人の絡み合いと、テニスに人生を捧げたなかなか壮絶な世界が描かれる。夫婦と言えど映画の感想は違う。良人は『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』を家で再視聴。競技としてのテニスの興奮を思い出したらしい。(そろそろウィンブルドンだし)
わたしは『チャレンジャーズ』のあらすじとして、二人の男性と一人の女性の設定を聞いていたので、名画での三角関係は? と考えていた。有名なのはフランソワ・トリュフォー監督の『突然炎のごとく』だろう。しかしこの作品は未視聴で、自宅の積ん録画にもない。田嶋陽子のフェミニズム観点からの映画解説で読んだくらい。一人の女性に二人の男性といえば、ほかに『生活の設計』という映画がある。横溝正史の小説の中で奇妙な同居生活を送る人物がこの映画を参考にして、と言っていて覚えがあるし、塩野七生の映画のエッセイでも語られていた。『チャレンジャーズ』を観に行く前に『生活の設計』を観た。
『生活の設計』(原題:Design for Living)は1930年代のアメリカ映画で、監督のエルンスト・ルビッチは名前だけ聞いたことがある。
パリ行きの列車のコバートメントに若い女性が案内されて入ると、先客の若い男性二人がグースカ眠っている。女性は荷物からスケッチブックを取り出して何やらスケッチ。終えると足を投げ出して居眠りを始める。男性側が目を覚まして、落ちたスケッチブックを取り上げて覗いてみると、ナポレオンを戯画化したイラストや、居眠りする二人の写生が描かれている。女性も目を覚まし、自己紹介をして、それぞれの身の上や芸術に関して語り合って、楽しいひととき。
男性の背の高い方がジョージ・カーティスで画家、もう一人がトム・チェンバーズで劇作家、女性はジルダ・ファレルで広告デザイナー。まだ三人とも駆け出しだ。
パリに到着するとジルダを出迎える中年の男性が現れて、ジョージとトムはあれれ? となる。中年の男性は広告会社のエライさんでマックス・プランケットと言い、ジルダに言い寄っている。ジルダは友情以上は有り得ないと言い切り、仕事相手と割り切っていが、ブランケットは諦めが悪い。
パリでルームシェアして暮らすジョージとトムはジルダに恋してしまう。それぞれこっそりデートしているのが解り、彼の女を忘れるのが互いの友情の為だとなるのだが、やっぱりジルダに会えば恋する男性の気持ちは捨てきれない。ジルダはジルダで選べない。
「男性が複数の女性を愛することってあるでしょう? それがわたしにも起こってしまったの。ジョージもトムも同じくらい愛している」
ここで一旦去るとか、決められるまで待ってと言い出すかと思えばさにあらず。
「三人で一緒に暮らしましょう。わたしは世話係と批評家になるわ。わたしは芸術の母になるの。性交渉はなし」
紳士協定とジョージもトムも受け入れる。ジョージ役はゲイリー・クーパー、トム役はフレデリック・マーチと三十そこそこながら将来の銀幕スタア二人である。男っぷりも上々の二人に囲まれたら眼福にも与れる。ジルダは辛口批評をしながら、作品の売り込みまでしてくれた。ジルダの売り込みのお陰もあって、まずトムの書いた喜劇の脚本が取り上げられる。ロンドンでの上演なので、トムはロンドンへ数週間出張となった。親友の成功を我が事と喜びつつ、友がいなくなると、まだ何者でもない己の存在を突き付けられ、ジョージは辛い。ジルダに言う。
「今日は君と過せない。映画かホテルに行ってくれないか」
「紳士協定と言ったけれど、わたしは紳士じゃないから」
一方ロンドンのトムは大受けの芝居の脚本家としてエッヘンと振る舞っているところ、パリから二人の仲を知らせる手紙が届く。その後劇場に居合わせたプランケットは「振られたのは僕一人じゃないから」と飄々とした様子で、ジョージが肖像画家として成功したことを聞かせた。トムがパリに戻ると、二人は高級アパートに引っ越しており、ジョージは客の注文を受けて丁度ニースに出掛けていて、秘書役のジルダがいた。トムのタイプライターが手入れをされないままあり、二人は向かい合う。
一晩過ごしてみて、自分の女になってくれたとこの状況で思っちゃうのもどうなんだか。
依頼主と意見が合わずに予定より早く帰宅したジョージは、ジルダとトムのただならぬ様子にすべてを察する。
「出て行ってくれ」
言われてジルダは荷造りをすると部屋を出る。しかし、いつまで経っても現れない。おかしいと様子を見に行くと、二人への別れの手紙を残して、ジルダは一人姿を消した。
アメリカでプランケットがジルダを花嫁として迎え入れる。事情を知っているし、立派な家に執事やメイドがいるのだから、ジルダは生活の安定と自分に甘い配偶者を手に入れたことになる。精神面の充足まで求めなければ暮らしていけたかも知れない。でも駄目だった。ジルダはビジネスの話題しかなく、ホームパーティも仕事がらみの接待をしろと命じられ、遂に夫にブチ切れてしまう。そこへジョージとトムが現れる。ホームパーティを台無しにした妻と離婚して、とジルダはプランケット邸を飛び出す。
三人で元の生活に戻ろうと帰途、ジルダは言う。
「最初の約束は守るのよ」
「解った、紳士協定だ」
三人で手を重ね合う。
大丈夫かな? と思わないでもないけれど、ひとまず完。
将来ジョージとトムがどちらかを選べと言い出すか、ジルダがマネージャーに徹するよりも自分も表現の仕事をしたいと言い出すか、先々のことは解らない。ジルダのような個性と行動力があるなら裏方で我慢できるのか。でもいくらアメリカ人でも第二次大戦前では女性の立場はかなり不利。二人を支えつつ、幾らかイラストも手掛けてますと顔を出すのが限界なのか。
オシャレで都会的な恋愛コメディでも複雑な気分にさせられた。




