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義理チョコの謎

 わたしがバレンタインデーなるものを知ったのは小学校の低学年の時だった。当時親に購入してもらっていた小学館の『小学〇年生』の女子向け漫画にバレンタインデーに好きな男の子にチョコレートを贈る日で、と、可愛らしい騒動が描かれていた。日本でのバレンタインデーはもっと前から宣伝はされていたのだろうし、日本独自のホワイトデーもお菓子メーカーが設定していただろう。

 昭和六十年代には義理チョコも定着しただろうか。

 わたしが就職してすぐに配属された部署は男性ばかりだった。その上で、義理チョコが欲しいとはっきりと口にする男性がいた。出費が痛いと内心面倒ながら、配った。ところがその当時はたとえ義理でもバレンタインデーにチョコレートをもらったら三月十四日になんらかのお返しをしなければならない、というホワイトデーに関しては男性の認識が非常に薄かった。そういうものは本命チョコをもらった男性がするのもの、程度で、義理チョコをせがまれた割には何ももらえなかった。

 男性側もお返ししないと文句言われるのなら、チョコレートいらないよ、と言う方が本音では多いかも知れない。

 で、何年か前、良人が帰宅後、二月十四日に職場でもらったチョコレートを出した。何個かあったが、わたしはその一つに驚いた。

「既婚者と解っているのに本命チョコを渡すヤツがいるのか。いい度胸だ」

 良人はわたしが何を言っているのか解らなかったので、不機嫌そのもので指摘した。

「これってゴデ〇バだよ」

 良人はそのブランドを知らなかった。

「そうなの? だってみんなにおんなじの配ってたよ。義理だよ、義理」

「はあ? そうなの? これって千円か千二百円くらいするよ。それにこのメーカーバレンタインデー前に義理チョコをやめようと宣伝してたよ」

 良人は信じられないといった顔をした。

「これっぽっちでその値段?」

 小さな包みを開けると、そこにはデコレーションされた三粒と紙に包まれた二つのチョコレート。チ〇ルチョコと同じくらいの大きさで、値段が一桁違うチョコレートが存在するとは、と良人はなおも信じられない気分のようだった。わたしは義理でこんな高いチョコレートを渡すなんてと半信半疑ながら、良人がその価値を知ってなかったのだから大丈夫だと思った。女房が心配するほど亭主モテはせずは、事実のようだ。

 わたしと甘い物好きの二男が、わーい、ゴディ〇だと瞬く間に食べ尽くしたので、良人はチロ〇チョコとの違いを味わえなかった。

 その翌年も、良人は義理チョコでゴ〇ィバをもらって帰ってきた。良人は〇ディバを一つ摘まんでみたが、一粒で何百円もするとはやはり信じられないようだった。

「こんなちっちゃいのにもいろんなフレーバーを付けてデコレーションしているんだから、凝っているじゃない。

 それにしてもこの人、家族か知り合いにゴデ〇バの販売員がいて、ノルマを助ける為に買っているのかしら?」

「さあ?」

 本気で興味がなさそうだった。

「お返しもそれ相応にしなきゃいけないから、義理なんだから安いのでいいんだよ。こういうのとか」

 と、良人はロ〇テの板チョコを指した。普段から売られている普通のチョコレート。

 贈り物を選ぶのって結構気を遣う。確かにいつでもスーパーの棚にある物の方が、義理なら気が楽だろう。お返しするのにも同程度で済むし、それで職場の雰囲気が和むのなら、大きな出費にならない。掌に乗るサイズの箱に、千二百円のチョコレートは挨拶の品にしては立派過ぎる。

 モテる錯覚でも無ければ寂しいならともかく、見栄で義理チョコなんて欲しいのか、そこの男性の心境は解らない。


 もう二十年以上も昔のことだが、買い物で下着屋に行った時に、四十がらみの男性が一人現れた。

「バレンタインデーのお返しで贈り物をしたい。パンツをプレゼント用に包んで欲しい」

 本命さんではなく、職場用らしく、個数は一つではなかったし、適当に選んでくれないかと店員さんに言っていた。

 果たして幾らくらいの予算だったかは覚えていない。これだって品物はピンキリだし、場合によってはドン引きされる。贈り物って難しいのだ。

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