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恋が変

 映画『トイストーリー』の二作目だったと思うが、顔に落書きされ、ヘンな髪型になったバービー人形が一瞬出た。おもちゃと生まれてきたからには子どもに遊んでもらいたい、コレクターグッズや民俗資料で仕舞いこまれたくない、といったテーマなので、この映画に出てくるへんてこ(ウィアード)バービーは自分の身を嘆いていなかった。

 以前に別のエッセイでちょこっと紹介したが、翻訳者の岸本佐知子編訳の『変愛小説集』(講談社)の中の一篇に、『リアル・ドール』がある(作者はニューヨーク在住のA・M・ホームズ)。なんというか、引く人は引く内容だ。

 主人公は「僕」、十代の少年で、妹のジェニファー、両親と暮らしている。「僕」は妹のバービー人形と恋愛をする。(ほら、ドン引きしたでしょ?) 作品は「僕」の一人称で語られ、一応バービーとの会話が成立していることとなっているが、これは「僕」の脳内で補完されているに過ぎないだろう。妹が週三回ダンス教室に通っているので、その隙に「僕」は妹の部屋に行ってバービーを持ち出してデートしている。最初は何気なく妹の部屋に行ってバービーを眺めていただけだったのだが、バービーと視線が合い、バービーから「ハァイ」と呼び掛けられ、そこから交際が始まった。親の使っている洗面所から精神安定剤を持ち出して、アメリカを象徴する清涼飲料水に溶かして飲んでるような坊やで、アメリカ人の感覚なのか、アブナイのか、判断に困る。「僕」はバービーの頭を口の中に入れてみたり、足をくわえてみたりとしているうちに、遂には傍目にセルフプレジャーな行為に及ぶ。当人はバービーと愛し合っているつもりで、バービーもそんな反応を見せている(ことになっている)。

 アニキよ、妹の人形でそんな遊びするなよ、と言いたくなるではないか。当人は至って真剣で、バービーへのプレゼントと、トイザ〇スにいってバービー人形用のグランドピアノを十三ドルで買ってくる。

 妹は兄貴の所業に気付いていないようだが、彼の女もまた人形との遊び方がぶっ飛んでいる。天井のファンから紐で吊るされて振り回される、爪噛みが癖の彼の女から爪先をがじがじと噛まれ、足が千切れかけ、両の足首に歯型が残る、頭を引っこ抜かれ、バービーとケンと挿げ替えられる、耳に待ち針を刺してピアスに仕立てられる、ナイフで体中傷付けられる、火で炙られる、などなど。兄貴もバービーの頭を乗せられたケンの体にまたセルフプレジャーなことをしてしまうのだから、どっちがおかしいのだか言えないような気がしてくる。

「こんなことされてどうして黙っているんだ」

 と言う「僕」にバービーは、

「わたしはジェニファーの物だから」

 と答える。

 どんなに脳内でバービーとの会話や心情を想像しようと、バービーは妹の人形であり、人間のすることに抵抗できない物体に過ぎないと少年は思い知らされていく。

 少年の恋は終わるが、今後の恋愛対象が生身の女性となるか無生物のままかは不明だ。恋愛は、微笑ましい、瑕瑾のない縁談そのもの、なんてなかなかあるものではない。「恋は盲目」だし、人目を忍ぶほど燃え上がりもするし、世の中の大多数と違い過ぎて精神医学的にどうこうと症例扱いされかねない場合もある。

 ぼろぼろになるまで大事に遊んでもらうのがおもちゃの本望だとして、この短篇でのこーゆー遊び方されて、おもちゃは嬉しいんだろーかと、不安になるのだった。

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