表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/111

ノルンの紡ぐ運命の糸

 前章の続きです。

 アムレートは手始めにソリルの部下を殺して、縛り上げた格好で外壁に括りつけ、オルガは食べ物に毒キノコを入れて、幻覚や錯乱を起こさせる。

 狂乱と恐怖が占める夜、アムレートはグールトンの部屋に忍び込み、正体を明かし、目的を告げるが、グールトンの反応はアムレートの予想と反していた。グールトンはオーヴァンディルが教えていたような高貴の姫ではない、奴隷の身だったと服をはだけて焼き印の跡を示した。奴隷の身でオーヴァンディルの暴力を受け、男児を出産した、オーヴァンディルは乱暴で好色な男だったが、フィヨルニルはそうではない、わたしがフィヨルニルに王位を簒奪せよと言ったのだ。あの日叔父に担ぎ上げられ、悲鳴を上げていたではないかと母に迫ると、グートルンは喜びで笑い声を上げていたのだと言い返す。激怒したアムレートはグールトンの部屋から去り、ソリルの部屋に行き、寝ている従弟を一突きにして命を奪った。

 ソリルの死を嘆き悲しみ、心臓を切り取られて怒りにかられたフィヨルニルは奴隷たちを集めて一列に並べ跪かせた。妻からアムレートが生きて復讐しにきたと教えられ、アムレートの協力者は誰かと刃を手に一人一人迫った。オルガの首に剣が突き付けられ、血が流れるとアムレートはソリルの心臓はここにあると姿を現す。アムレートは捕らえられ、拷問を受ける。しかし、烏が何羽も集まってきて、アムレートを縛る縄を(つつ)いて切ってしまう。そうだ、オーディンのお使いは烏で、オーヴァンディルは大鴉王と呼ばれていた。

 鮮やかな赤いマントに長い金髪をなびかせた女性が白馬に乗って駆け、白馬にはアムレートが乗っている。あれ? もうアムレートはヴァルキュリーに連れられてヴァルハラに行っちゃったの? ヴァルキュリーって水色の歯列矯正器を付けているの?

 はっと気が付くと、アムレートはオルガと人里離れた温泉で傷を癒している。どうやってか逃げ出したのか。きっとデウス・エクス・マキナの力が働いたのね。心許す間柄のオルガとアムレートはオークニーに落ち延びようと船に乗る。しかし、オルガの首筋の傷に触れると、アムレートは幻影を見る。命の樹に連なる血族に男女の双子がいる。女児は冠と剣と王笏を手にしている。オルガが身籠っているのを悟り、フィヨルニルが生きていては子どもたちの安全はない、やはり復讐を果たす、とアムレートは言う。復讐よりも家族を取るべきだと言うオルガに、「定めと家族の両方を取る」とアムレートは言い切り、海へと飛び込み、泳ぎ出す。アムレートは奴隷たちを解放し、館へ入る。グールトンが立ち向かってきて、アムレートは母を殺し、その光景を見て斬り掛かってきてグンナルを斬る。フィヨルニルは妻子の亡骸を前に、地獄の門で待つと告げる。

 アムレートが地獄の門、アイスランドの火山に行くと、グールトンとグンナルの遺体が並べられ、弔いの為の馬の生贄が捧げられていた。大声で来訪を報せ、溶岩流れる場所でフィヨルニルとの決闘となる。見事アムレートはフィヨルニルの首を落とすが、自分も胸を貫かれる。アムレートはオルガの子たちを思い浮かべ、命を落とす。今度こそアムレートはヴァルキュリーの馬に乗せられ、ヴァルハラに向かう。

 オルガとその子どもたちが無事に目的地に着いたか、幻視の通りの運命を辿れたかは観客の想像の中。

 北欧神話は音楽や絵画の鑑賞からいくらか読んで知っていたが、まだまだ知らないことが沢山あると教えられる。

 多神教だからなのだろうが、オーヴァンディルは戦争の神オーディンを信仰し、フィヨルニルは豊穣の神フレイを信仰している。兄弟でも信仰に違いがあり、そこが性格や治世の違いになったのだろう。まあ、平和と豊穣の神フレイに祈るにしても、生贄を捧げるのは変わらない。それも家畜じゃなくて人間だ。生贄に選ばれた人間がさしたる抵抗もなく、むしろ従容として死んでいく。死生観がまるきり違うというか、あの世に行くとどうなるかも、かなり違う考え方なのだろうと、ぼんやりと理解する。神々と人々をつなぐシャーマンの役割は尊重されていて、オルガの持つ技能と同様にキリスト教が入ってくると邪教、魔女と弾圧される類のものとなる。「父の仇を討て」の言葉がアムレートの人生を支配し、邦題にある通りに何かに導かれゆくような展開。定めと家族、両方を取ると言いつつ、生きて家族の側にいてやれなくなった。

 主人公の父が人格高潔ないいばかりの面ではなかったらしいのと、敵である叔父さんがただの悪い奴でないのが現代的。グールトンは『ハムレット』のガードルートのように悪事に関して本当に何も気付いていないの? といった感じではなく、マクベス夫人のごとくである。

 アムレートが父を殺され、王位と母を奪われ、逃亡するまでは悲劇だが、生き延びる為にヴァイキングの仲間になって殺戮と略奪を繰り返し、アムレート自身が誰かの仇になっているのだし、アイスランドの叔父の許に着いてから行う嫌がらせの殺人は血腥い。使用人たちや家族が殺され、錯乱する者まで出てくれば、叔父一家は精神的に削られる。ここまでやるのか、復讐は復讐を呼ぶぞ、と思わざるを得ない。火山での決闘で二人が斃れ、忌まわしき因縁はここで終わりだ、アムレートも満足してヴァルハラに行ってくれと観客は胸を撫でおろす。

 カラー映像なのにモノクロのような広大で荒涼とした北ヨーロッパの自然は、過酷な運命を共に語る。

 ヴァイキングの習俗に歯に溝を彫って色を塗るのがあるらしいって今回知ったけど、映画で見えたヴァルキュリーの歯ってそれかしら? “Bluetooth”の語源になったデンマークの「青歯王」って別に虫歯だからじゃないのね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ