ハムレット型ではないハムレット
映画『ノースマン 導かれし復讐者』の内容に触れます。
ツルゲーネフの評論は読んだことはないが、物語の人物造形の「ハムレット型とドン・キホーテ型」は有名で、その簡単な解説は昔読んだ覚えがある。曰く、あれこれ悩んで決断できず行動できないのが「ハムレット型」で、考え無しの猪突猛進が「ドン・キホーテ型」と分類される。
そういう分け方は今は古いとされる、らしい。ロマン主義のフィルターはなしにしようぜということらしい。
シェイクスピアの『ハムレット』の映画はフランコ・ゼッフィレッリ監督、メル・ギブソン主演のものしか観たことがない。自らもシェイクスピア俳優であるローレンス・オリヴィエやケネス・ブラナーの主演作は観ていない。(ケネス・ブラナー監督の『世にも憂鬱なハムレットたち』は観たが、あれは『ハムレット』を上演する俳優たちの奮闘の話だもんなあ)メル・ギブソンのハムレットはアクション俳優だから興行面を考慮しての配役じゃないかだの、貴公子っぽくないだの、結構言われていた。
しかし、今回観たシェイクスピア戯曲の元ネタを下敷きにしたとされる映画『ノースマン 導かれし復讐者』の主人公と比較したら、メル・ギブソンのハムレットは充分過ぎるほどノーブルである。シェイクスピアの『ハムレット』はデンマークの伝承を基にしていて、父王を叔父に殺され、王位も母も奪われた王子アムレスが狂気を装い、仇を討つ話だと『ハムレット』の解説に書いてある。『ノースマン 導かれし復讐者』はその伝承や北欧に伝わる神話や英雄譚などを下敷きにして創作された。
映画の冒頭、ヴァルハラに迎えられるだのなんだのの台詞が出てくるし、九世紀末の北大西洋に面した国が舞台であると明かされる。キリスト教が普及する以前の北欧なのだ。烏が飛び、海の向こうから船が港に入ってくる。幼さのある少年アムレート王子が母に父が帰ってきたと喜び伝え、父を迎えに出る。父オーヴァンディルは大鴉王とも呼ばれオーディンを信奉している。戦勝の祝いの席で父は息子に略奪品の金の首飾りを贈る。玉座の側に出てくるようにオーヴァンディルの異母弟フィヨルニルが呼ばれる。フィヨルニルにはソリルという子どもがいる。見た所アンヨができるようになったかならないかくらいの乳児で、抱いて連れてきたのは乳母か女官のようだ。生別か死別か不明だがフィヨルニルは今独身らしい。王妃のグートルンがフィヨルニルに盃を渡す。すかさず道化役がからかう。
オーヴァンディルは戦傷を受けたこともあり、祈禱所みたいな所にアムレートを連れて行き、成人の儀式を行う。蜜酒か何かの薬草の効き目か、幻想的というか神秘体験といった感じである。宙に浮いているような、生命の樹に連なっているような。父は息子に戦士たる訓を垂れ、「もし父が討たれることがあれば仇を討て」と言う。夜が明けて、祈祷所から出てくると父に矢が射かけられる。叔父フィヨルニルとその手下だ。叔父が父の首を刎ね、叔父の手の者がアムレートを殺そうと迫る。アムレートは自分を取り押さえた者に抵抗し、どうにか逃げ出し、城に向かう。既に城内は叔父の手に落ちており、母グートルンは叔父に担ぎ上げられ、大きな声を上げていた。アムレートは「父の仇を討つ、母を取り戻す、叔父を討つ」の言葉を繰り返し、国から逃げ出した。
数年後と字幕が出るが、その後の状況から見るに十数年は確実に経っていて、十世紀に入っているような気がする。ヴァイキングの船が行く。漕ぎ手の一人に金の首飾りを付けた男性がいる。筋骨隆々、伸ばしっぱなしの髪に髭の男性がアムレートの成長した姿だ。幼かった王子の面影はまるでない。アムレートは故郷から逃れ、ヴァイキングの一員となった。ヴァイキングの戦いの前の呪いが実に勇壮というか、猛々しい。精神を高揚させ、一団は半裸に狼の毛皮をまとい、ロシアの村落を襲う。アムレートは活躍し、村は落ちた。生き残った村落の人たちは選別され、足手まといとされた人たちが小屋に押し込められて火を点けられた。残虐行為は戦いの中で繰り返される。
ローマ文明やキリスト教が入ってくる前の北欧には土着の宗教と文化があって、ゲルマン民族、ヴァイキングの荒々しさが存在していたと描き出されている。狼のどう猛さをその体に乗り移らせてバーサーカーとなって戦おうと這いつくばり、唸り声を上げる儀式に面喰いつつ、刻まれるリズムに共に観客も高揚し始める。神がかりになる為の儀式と村落での戦闘は前半の見どころだ。
戦勝の宴の夜、焼き払われたはずの建物の中に入ると盲目の巫女がいて、アムレートの過去を言い当て、定めを果たすか家族を選ぶかになると告げられる。奴隷商人が捕らえた村落の人たちを何処に連れて行くか話している中で、フィヨルニルが戦いに敗れてアイスランドで羊飼いをしている、そこに売りに行くとアムレートは情報を得る。アムレートは髪を短く切り、自ら奴隷の焼き印を押して、奴隷商人の船に乗り込む。船の中で白樺の森のオルガという女性と知り合う。彼の女もまた奴隷として売れられていく身で、呪いや薬草に詳しいらしい。オルガはオフィーリアというよりホレイショだ。
アイスランドに上陸し、アムレートとオルガ、その他連れてこられた何人かが奴隷として買い取られる。フィヨルニルの側に幼い少年がいるので、この子がソリルかと思ったらグンナルといい、フィヨルニルとグートルンの間にできた子どもだ。ソリルはうっすら髭を蓄えた青年になっている。(数年後どこじゃなかろうが!)密かに探索をしていると、夜、狐の姿を見、アムレートはその後をつけていく。狐の案内で魔導士に会い、魔導士は殺された道化役の頭蓋骨を示し、骸骨は仇を討つための武器を手に入れる方法を教えてくれる。教えられた墳墓の中で不思議な力を持つ剣を手に入れる。なかなか幻想的な光景。
アムレートは近所の領主との競技に駆り出され(棒を持って相手陣地に立ててある柱にボールを叩きこむのだが、棒で相手を殴り倒して可で非常に危険)、興奮して飛び込んできたグンナルが相手方に殴られ、更に被害を受けそうになるのをアムレートは救う。試合にも勝ち、アムレートは褒美に奴隷たちの監督役への格上げと、好きな女を選んでいいとソリルから告げられる。アムレートはオルガと結ばれ、改めて復讐を誓う。
続きます。




