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鏡は端から端まで砕けた

 YouTubeの「山田五郎 オトナの教養講座」は絵画の紹介・解説をしているチャンネルで、面白くてよく観ています。ある回でウォーターハウスの『シャロットの女』を紹介していました。イギリスの詩人テニスンの“The Lady of Shalott”をモチーフにして、ボートに乗る中世の姫君を思わせる女性の姿が描かれていました。

「ザ・レイディ・オブ・シャロットなんだから「女」じゃなくて「貴婦人」だろ」

 とか山田五郎がタイトルについて言ってました。確かに青空文庫にある坪内逍遥の翻訳のテニスンの詩の題名は『シャロットの妖姫』。詩の内容は、川の中州に建つ塔の中でシャロットの姫は鏡を通して外を見て、一人でずっとタペストリーを織って暮らしていました。様々な人々を見ていて、遂に姫は心に兆すものを自覚します。麦畑の道を騎馬で通る騎士ランスロットの姿を見て、姫は鏡からではなく騎士を見ます。鏡は割れ、姫は呪いを受けます。姫は塔を降りて、川のボートに乗り、自分の素性を記します。ボートは流れ付き、その中にいる女性の骸を皆覗き込みます。騎士ランスロットもその一人で、見ず知らずの姫の為に祈ってくれます。ざっとこんな内容です。

 ほかにもテニスンの『シャロットの妖姫』を題材にした絵画を何枚か出して見せてくれました。(言うまでもなく写真ですよ、写真)その中には別の画家、ハントの『シャロットの乙女』がありました。

 ハントの『シャロットの乙女』は中野京子の『怖い絵2』(朝日出版社)にも載せられていました。絵画としてはこっちの方が印象が強いような気もします。ハントの絵は女性の髪が逆立ち、糸が体に巻き付いているのですから。

 シャロットの姫がどうして塔に閉じ込められて、タペストリーを織り続け、しかも直接外を見てはいけない、鏡を通してとされているのかは詩の中にはありません。ただ、心奪われ、鏡を使わずにランスロットを見て、姫は命を失います。

 なんとも切ない話です。

 山田五郎から中野京子と来て、『怖い絵2』での紹介で、アガサ・クリスティーの『鏡は横にひび割れて』(ハヤカワミステリ文庫 橋本福夫訳)の話まで載せられていました。ミス・マープルの友人が、とある登場人物の表情からテニスンの詩を連想して語る所から題名に持ってきたのでしょう。

 クリスティーの小説の原題は“The Mirror Crack’d From Side to Side”、テニスンの詩からの引用です。

“from side to side”とあると、「端っこから端っこまで」とわたしは頭の中で訳してしまいましたが、辞書を引くと、「左右に」、「横に」です。坪内逍遥は「憂然として明鏡は まったゞなかより割れてけり」と訳しています。とにかく鏡はもう使えないほどの割れ方をしたのだと解釈できます。

 騎士ランスロットが仕えるのはイギリスの伝説上の英雄アーサー王で、中世の騎士物語です。中世のイギリスなら鏡は金属で、銀箔とかにガラスを敷いた鏡はまだなかったんじゃないかと、ちょっとひねくれたことも考えてしまいます。テニスンは十九世の人なので、鏡といったらガラスを使ったものなんでしょう。

 いえ、十九世紀の桂冠詩人に盾突くわけじゃなくて、時代考証的な興味です。

 地元の図書館にテニスンの詩集がないし、“Project Gutenberg”で原詩に挑戦してみるほど英語力ないしで、テニスンとその著作については全く知識がない状態です。

 唯一地元の図書館にあったのはテニスンの本は絵本で、これは『シャロットの姫 詩の絵本』(ジュヌヴィエーヴ・コテ絵、長井芳子訳、バベルプレス刊)でした。これもまた絵による詩の解釈はそれぞれであると、不思議なものでした。

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