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成長の軌跡の物語

 休日、配信サービスで良人が何か観ないかと誘う。それぞれ好みがあるけれど、一緒に観る場合はわたしに選ばせてくれる。随分前に『少女バーディ ~大人への階段~』、先日『セールス・ガールの考現学』を観た。どちらも女性が主人公なのだが、『バーディ』は十三、四の女の子で、『セールス・ガール』は成人したばかりの大学生だ。どちらも諧謔を交えて成長を描いている。

『少女バーディ ~大人への階段~』はイギリス映画で原作小説があるらしい。『トム・ソーヤーの冒険』の中世イギリス女の子版みたいな印象で、元気一杯の女の子で小鳥を飼うのが好きなキャサリンことバーディ(小鳥ちゃん)は領主の娘ながら羊飼いの少年や町の子どもたちと一緒に遊ぶ。泥だらけになって帰宅して、乳母からたしなめられるが意に介さない。

 バーディの母は王家の血筋を引くレイディ・アシュリンで、レイディの称号を持つ女性と結婚した父ロロはロードの称号付きで呼ばれる。でも内実はただの田舎領主で、身の丈に合わない贅沢をして財政は苦しい。執事がロロ卿に「お年頃になったお姫様を多額の支度金を用意してくれる殿方と結婚させるしか財政を回復させる方法がありません」なんてロクでもない(でも時代的にはそれなりな)提案をするほどだ。

 貴族の身に政略結婚は付きものとはいえ、バーディは結婚なんて考えられない。初潮が来ても隠そうとする。

 バーディには修道士になった長兄と、思春期真っ只中で意地悪ばかりの次兄ロバートがいる。近くの領主の娘のアリスがバーディの一番の友だちで、家族ぐるみでよく遊びに来るのだが、ロバートがうるさい。そんなアリスは年下の男の子と結婚させられる。どう見ても色気よりも食い気といたずらのガキンチョ。母の妊娠と死産もバーディの心を沈ませる。母の弟の叔父さんジョージは十字軍にも従軍したバーディの憧れの英雄であるが、財産がないので裕福な年上の未亡人と結婚することになる。

 遂に初潮を迎えたことを両親に知られ、結婚相手を選ぶのが本格化してしまう。バーディは親の決めた結婚を受け入れるしかないのか? それとも小鳥のように危険があると知りつつ自由を求めて飛び立つか? 

 城を抜け出して叔父の城まで一人で出掛けたり、次兄の恋を手助けしたりと、バーディは子どもらしい冒険を試みる。無理矢理大人にさせられるよりも少女をゆっくりと成長させてやろう、そんな気持ちにさせられる作品。

『セールス・ガールの考現学』はモンゴル映画。モンゴルの映画を観るのは多分初めて。道端にあるごみ箱の側にバナナの皮が落ちる。誰も拾わない。そのままにして人々が行き交う。一人の女性がバナナの皮を踏み、そのまま転ぶコントみたいな幕開け。”Fuck Banana”と足のギプスに書いた女性が主人公に言う。

「アルバイトに代わって出てくれない? あなたなら秘密を守れる」

 主人公のサロールは仕方なくなく引き受ける。友人ナモーナのアルバイト先は「オトナのおもちゃ屋」さんなのだった。店はワンオペ、品物の置き場所を説明し、「お客さんが黙って買っていくから大丈夫」とお気楽な引継ぎ。毎晩売り上げをオーナーのカティアに持っていく、と家の鍵を渡す。

 店を閉めて教えられた住所に向かうと、結構立派な家。中年くらいのモンゴル人の女性が出てくる。未成年と見間違われるが、身分証を見せて納得してもらう。

「眉毛がぼーぼーじゃないの」

 サロールの洒落っ気の無さを早速指摘する。前髪を下げたロングヘアは後頭部で一ヶ所ねじりを入れてアクセントにしているが、お洒落はそれくらいでゲジゲシ眉毛で化粧気がないどころではない肌の感じ。母親の言うとおりに大学で原子工学を専攻していて、本当に学びたいことを我慢していると白状させられてしまう。お金持ちみたいだけど一風変わった中年女性と殻に閉じこもりがちな大学生の間の交流が始まった。

 サロールの母は過干渉の毒親には見えない。成績が良いなら、子どもにしっかり学問を身に着けて欲しいと思っているだけのように見える。年の離れた弟がいて、テレビの前に座ったまんまの父親がいて、母はリビングでミシンを使っている。洋裁が趣味というより多分内職。

 毎夜カティアの家に売り上げを持っていくことになっているので、そこでカティアの人生を垣間見る。また、カティアはサロールを気に入ったようで食事に誘ったり、多少強引にレジャーに連れ出したりする。サロールは今まで知らなかった世界を知り、人生について考え直し始める。

 ナモーナは店のお客は黙って買っていくと言ったが、そんな訳もなく、友だちへのプレゼントと言いながら多分自分用のディルド購入の女性客と品選びに付き合う。冷やかしもいれば、切羽詰まった表情で「バイアグラを一箱くれ」という男性客あり。サロールは愛想も何もなく生真面目に対応する。薬や道具を指定先に配達する仕事もあり、行為の真っ最中に出くわしたり、警察の取り締まりにぶつかったりと結構ドキドキする。極め付けは届け先の男性が急に口説くような素振りを見せたかと思うと襲おうとしてきて、サロールは押しのけ逃げ出す。どういう客が知っていたんじゃないかとカティアに怒りをぶつけ、もう辞める、あなたは空っぽよ、と言ってしまう。

 カティアと完全に切れてしまうのはもう少し先。サロールは少しずつ変化しはじめる。前髪を上げて額を出し、髪型を変えた。服装も変わる。たとえが陳腐だが、毛虫が蝶に変態を遂げていくよう。

 ナモーナの怪我が治り、アルバイトの交代は終わり。気になってカティアの家を訪問するも引っ越しており、店も看板が変わり、別の店になっている。カティアから預かったと渡された箱を開けてみると、ドライブ先で買った茸の壜詰めとカティアが「1970年代の香りがする」と言ったピンク・フロイドのレコードジャケット。

 バーディもサロールも成長途上で出会った年長の女性の姿に影響を受けている。十代二十代となると両親は身近過ぎる。バーディは叔父ジョージの結婚相手の女性の明るさに好感を抱き、詩作が趣味というアリスの継母の言い分に感心する。女性の身では避けられない事柄でも、立ち回り方や知恵の働かせ方で何かを変えられるかも知れない。サロールはカティアの辿った人生すべてを知ることはできないが、窺われる心の揺らぎから学びを得る。

 少年の成長には兄貴分の存在が必要だなんてどこかで読んだけど、少女にだって姉貴や叔母さんみたいな存在は必要なんだ、そんな感想を抱く映画二本。

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