-妖怪特殊自警団-
ーー人の視線が、怖い。
その身を隠すように顔まで覆った薄汚れた外套を纏い、ふらついた足取りで一人の青年が街中を歩いていた。
辺りを見回し目に入るのは、連なる一軒家、公園、何かの入り口...おそらく商店街だろうか。
都会とも田舎とも言い難い、一般的な街、と言ったところだ。
ふと気づくと、青年の視界の端に訝しげな表情で見つめてきている、おそらくこの街の住人であろう女性が映っていた。
青年は少しの間考え込むと、
「あの、すみません...]
そう言って俯きながら女性の方へ近づいていった。
女性は少し驚きつつも、
「あら、何かご用かしら?」
と、意外にも会話に応じてくれた。
こんな風貌の者にいきなり話しかけられたというのにこの反応は、余程の胆力のある方なのだろうか。
「あの...いえ...『妖警団』という会社がこの辺りにあると聞いたのですが...。」
「あぁ妖警団ね。それならそこの道を右に曲がってまっすぐ行った突き当たりよ。」
「あ...ありがとうございます...では...。」
青年が逃げるようにその場を立ち去ろうと背を向けた時、突然の突風が彼の外套を大きく煽り、その内側が女性の目に留まった。
「.......尻尾?」
ーーー
三階建てで清潔感のあるビル。入り口のドアの上には『妖怪特殊自警団』と彫られた木の看板が掲げられている。
「ここだ...やっと見つけた。」
先程の青年がその看板を見上げるように立っていた。
ごくりと唾を飲み込み、ガラスのドアへと手をかける。
「し...失礼します...」
中は小さめの事務室のようになっており、パソコンや書類などが積まれたデスクの奥側には向かい合ったソファーとテーブルが置かれていた。
見たところ、この室内には人がいないようだが、奥にある扉の向こう側からなにやら声が聞こえてくる。
おそるおそると青年は部屋の中に入っていき、その扉をノックしようとした瞬間、
「ドワーーーーーー!!!!!!」
がしゃん!と大きな音を立てながらその扉ごと吹き飛んできたのは、ペストマスクを被った長身の男だった。
「おぉい!今の試合絶対勝ってたのに何してくれてんだ!!」
男は激しく打ちつけたのであろう腰をさすりながら壊れた扉の奥に向かってそう叫ぶ。
その声の向けた方向から、ツカツカと女性が現れ、腰に手を当てながら男を睨みつけ、
「見回りから帰ってきたらどっかの馬鹿が業務サボってゲームなんかしてるからでしょうが!!」
すごい剣幕で説教を始めた。いつのまにか男は正座をさせられていて、明らかに心ない言葉で
「スイマセン。スイマセン。」
と言っている。
あまりに唐突すぎる状況に言葉を失っていた青年だったが、おそるおそる絶賛説教中の二人に話しかけようとすると、
「あぁ!?」
と鋭い目つきで女性に睨まれ、涙目になりながら再び言葉を失ってしまうのだった。
更新は少し遅くなりますが、続けていきますのでご興味持たれた方がおられましたらぜひお待ちください。