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異世界プリンセス物語番外編 ~メイドと国王のとある一日~

作者: ココ

 日に日に寒さが増している冬の季節。


 今日は私がユウト様を起こす当番の日。これがメイドとしての最初の仕事。



―ーコンコン



 ドアをノックして部屋に入る。


「ユウト様、おはようございます。朝なので起きてください」


「う~ん。もう少しだけ寝かせてくれ……」


 まったく、相変わらず子供みたいなダダをこねて……。


 私がユウト様のメイドになってから2年ほど経ちましたが、この時期は特に寝起きが悪く、毎回起こすのに手こずらされています。


 ただ、その分子供みたいなかわいらしい寝顔を見られるので全然苦ではありません。むしろ私の楽しみになっています。



――バサッ



 だからといって甘やかすことはしませんが。


 私は勢いよく毛布を引っぺがす。


「うぅ。さむっ……。ユキ、もうちょっと優しく起こしてくれないか?」


「できません。朝食が冷めてしまうので、はやく着替えて下に降りてきてください」


「わかった」


 寝ぼけているユウト様をよそに、私は下に降りて朝食の準備を始めた。







「ゆ、ユウト国王。おはようございます」


「ユウくんおはよう。 ……ってもう遅いよ! みんな朝ご飯食べ終わっちゃったんだからね!」


「ごめんごめん。寒いの苦手でさ」


 ユウト様がお寝坊して下に降りてくる。それを他のメイドたちがあいさつして出迎える。いつも通りの見慣れた光景。


「そぉんなに寒いなら、私がギュってしてあげよっか?」


 ……いや、これはさすがに違いますね。


 まったくミーロンときたら……。彼女は基本、のほほんとしているだけのおバカなお姉さんメイドなんですが、時々大胆なことをしてユウト様のことを誘惑する。しかもそれを天然でやっているのがまた恐ろしい。いや、ひょっとしたらわざとなのかもしれませんが……。


「なっ!? ちょっと待ってミーロン! そんなことしなくていいから!」


「え? ……それって、ユウくんは私にギュってされるのが嫌ってこと?」


「いや、別にギュってされるのは嫌じゃないけど、その、なんていうか……」


「フフッ、ジョーダンだよ! ユウくん慌てすぎだよ~。でも、そっか。ユウくんは私にギュってされたいんだ~」


 ……全然冗談になっていません。


 それに『ユウくんは私にギュってされたいんだ~』って言葉にする必要ありますか? どう考えてもからかってユウト様の楽しんでいるようにしか見えないんですけど。いや、もしかしてそういって自分を異性として意識させようっていうアピールなのかも……。いや、彼女の言動を考察のは時間の無駄ですね。


 それより問題はユウト様の方です! 


 なんでちょっとからかわれたくらいで顔を赤くして照れているんですか? 私以外のメイドにからかわれて照れないでほしいんですけど……。


 この2人のやり取りを見ているとなんだかすごくモヤモヤする。



―ードンッッ



 ……いけない。運んできた朝食を勢いよくテーブルに置いてしまった。


「ユ、ユキ? ……ど、どうした? なんか機嫌悪い?」


 ……バカ。あなたのせいで機嫌が悪くなっているんですよ。

 

「さっさと朝ごはんを召し上がってください! 冷めちゃいますよ!」


「あ、あぁ、ごめん。いただきます」


 そういってユウト様は急いで朝食を食べ始めた。


 ……ちょっときつく当たりすぎちゃいましたかね。いやでもあんなの見せられたら誰だって不機嫌になります! 絶対ユウト様が悪い……。







「いってらっしゃいませ。ユウト様」

 

「……うん。いってきます」



―ーバタンッッ



 まさかあんなに落ち込んでしまわれるとは。少し罪悪感が……ってなんで私が反省しなくちゃいけないんですか!


「はぁ……」


 心のモヤモヤを晴らすかように少しだけ溜息を吐く。いや、こんなことを気にしている場合じゃありません。今は仕事に集中しなくては。


 あまねとミーロンを呼び寄せ、私たちはお屋敷の清掃を開始した。






「まずは2階の掃除をしなくちゃ……」


 水が入った重いバケツとモップを両手で抱え、長い階段を上がる。それにしても、暖房が効いていない階段だと手がかじかんでしまいますね。力が全くはいらな……



―ーツルッッ



「あっ……」


 意識が手に集中していたせいか、階段を踏み外してしまった。


(ッ!? これはまずいですね、このままじゃ頭から……)


 私はどうすることもできず、ただ目をつむった。



―ーガシッッ。…………バシャャー――ン



 ……あれ? どこも痛くない。もしかして誰かが私を受け止めてくれた? ……ああ、きっとミーロンが私を助けてくれたんですかね。彼女力持ちですし。 


「ありがとうございます。助かりまし……」


 閉じていた目をゆっくり開ける。


「ユキ、大丈夫か!?」


 ……え? そこに映っていたのはミーロンではなくユウト様だった。


(な、な、なんでユウト様が私を!? 全然状況が理解できない……。いったいなんでどうして……)


「ユキ!」


「は、はい」


 大声で名前を呼ばれ、ようやく乱れていた気持ちが落ち着いた。


「よかった。特にケガとかはなさそうだな」


「ぁ、ぁ、あの、ゆ、ユウト様。な、な、なんでここに……」


「ん? あぁ、ちょっと部屋に忘れ物しちゃったから取りに戻ってきたんだ。そしたらユキが階段から落ちてきて……。いやぁ、すごいビックリしたよ」


「そ、そうでしたか……。あ、あの、助けていただきありがとうございました」


 心臓がドキドキする。


 も、もちろんこれは階段から落ちそうになったからであって、決してユウト様に抱かれているわけでは……


「……朝から思っていたんだが、今日のユキは何か少し変だぞ。もしかして疲れてるんじゃないか? もしそうなら今日は休んだ方がいいと思うんだが」 


 ……またその話ですか。ユウト様はなんにも分かっていない。


 私だけ一方的に気にして、ユウト様が全く気にしていない。なぜかわかりませんが、この状況がすごくイライラします。


「疲れてなどいません! ……仕事に戻るのでそろそろ離してもらってもいいですか?」


「そ、そうか。ごめん。今離すよ」


 ……またやってしまった。ついカッとなって冷たい態度で接してしまう。こんなんじゃダメって頭では分かっているのに。


 私はユウト様から顔をそらす。


「よくわかんないけど、なんか悩んでることがあったらいつでも相談して。話だけなら俺でも聞いてあげられるだろうし。…‥それと、ユキには元気でいてほしいからさ」



―ーポンッ



 ユウト様はそういって私の頭に手を置き、優しく微笑みかけてくれた。


 こういう無自覚で私に優しくするところがずるいです。


「……今日の夜、お話があるんで聞いてもらってもいいですか?」


「ん? あっ、ああ、もちろんいいよ」


「そ、そうですか。分かりました。……あの、はやく王宮に向かわれた方がいいのでは?」


「え? ……って、ああ、そうだった!? すっかり忘れてた! 早くいかないと!!」


「あっ、ユウト様。忘れ物があるんじゃ……」


 行っちゃった……。


 まったく。ユウト様は一国の国王様なのですから、あわてんぼうなところも直していただかなくてはいけませんね。







 お掃除が終わりましたし、次は買い物ですね。


 今日はユウト様が悪いとはいえ、私もひどい態度を取ってしまいましたし、お詫びもかねてお夕飯は豪華な料理にしましょう!


 そう思いたち買い物に出かける。


「あっ、雪が降ってる……」


 そういえば、前にユウト様と一緒に湖に落ちてしまった時も雪が降っていましたね。


 たしかあの時もユウト様とケンカをして……。


「フフッ、なんだかとても懐かしいですね」


 そういえばあの時……。


「本日、冬専用の防寒アイテムが大変お買い得になっております! いかがでしょうか!」


 ……少し思い出に浸りすぎてしまいましたね。


 売り子さんのかわいらしい呼び声でふと我に返る。どうやらいつの間にか商店街についてしまっていたみたいですね。

 

「防寒アイテムですか。……あっ、そういえば」


 ユウト様は『アレ』を持っていない。今日のお詫びとしてプレゼントしたらきっと喜んでもらえるるはず……。


 いや、私は何を考えているんですか!


「お姉さん。何かお求めですか?」


 ……つい商品を見すぎてしまった。まさか売り子さんに話しかけられるとは。


「いや、あの……」


「ははぁーん。さては、好きな男性へのプレゼントを考えてたんでしょう?」


「ち、ち、違います! 私はただお詫びの品としてですね……」


「あっ、好きな男性へってのは否定しないんですね?」


「ッ!! し、失礼します!!」


 恥ずかしさのあまり逃げ出そうとしたが、売り子さんに腕をつかまれてしまった。


「ご、ごめんなさい! お姉さんがあまりに可愛かったんでついからかっちゃいました。あの、サービスするんでぜひ買っていってください」


「……結構です」


「そんなこと言わずに。ほら、これとかおススメですよ」


 まったくしつこい売り子さんですね……。でも、せっかくサービスしてくれるんですから少しだけ……。


「あっ、これすごくユウト様に似合いそう……」


「フフッ、お姉さんがこれをプレゼントすればユウトさんもメロメロになっちゃいますよ」


「えっ!?」


 な、なんでユウト様へのプレゼントってバレてるんですか!? もしかして私、いつの間にかユウト様の名前を口にしちゃってましたか?


「どうです? お買いになりますか?」


 ……もうこうなったら買うしかありませんね。


「分かりました。買います」


「ありがとうございます!! ……フフフッ。ユキさん、ユウトさんと絶対うまくいきますよ」


「ど、どうも」


 なんかうまく誘導されてしまいましたね。


 でもまあ、いい買い物が出来ました。フフッ、ユウト様喜んでくれるといいなぁ……。







「ユウト様いつ帰ってくるんでしょう……」


 なんだかいつにもましてユウト様の帰りが待ち遠しく感じる。……それに、ほ、ほんの少しだけドキドキしますね。



―ーガチャ



 あっ、やっとかえってきた! さっそくお出迎えに……。


「お、おかえりなさい。ユウト国王」


「ああ、ただいま。あまねちゃん」


 ……先を越されちゃいましたね。私が一番にお出迎えしたかったのに!


「ユウト国王、手が真っ赤ですけど大丈夫ですか?」


「いやダメ。氷みたいに冷たくなってるし」


「そ、それは大変ですね。そういう時は首に手を当ててあっためるといいですよ」


「……へぇ、それじゃあ試してみるよ」



―ーピタッ



「きゃあああああああ!! つ、冷たい!! な、なんで私の首を触ってるんですか!? 私の首じゃなくて自分の首にあててくださいよ!!」


「あれ? 自分の首にあてなくちゃいけなかったのか……。ごめんごめん、勘違いしちゃってたよ」


「う、うそ。ぜ、絶対わざとやりましたよね!! もぉ~。ユウト国王のバカ~」


「ハハハッ、ごめんね」


 ……なんですかこれ? っていうかなんであまねとイチャイチャしちゃってるんですか!?


 私がお出迎えしたときは絶対そんなことしないくせに、なんであまねに対してはそんなに気安く接しているんですか? そりゃ、あまねは私よりも年下で可愛らしいメイドですけど、だからといってあんなことしていい理由にはなりません!! なんで私にはやってくれな……


 いや、ここはいったん落ち着きましょう。


 ここで怒ってしまったら私もやってほしいみたいに勘違いされてしまう。 あれはあくまでただの子供に対してのおふざけ。決してうらやましくなんかない!!


 って悩んでる場合じゃありませんね。私もお出迎えにいかなくては……。いつも通り冷静に。


「……おかえりなさい」


「え? ……あ、ああ。ただいま。……ユキ、もしかして怒ってる?」


「怒ってません!!!」






 ……どうしよう。またイライラをぶつけてしまった。


 今日の夜お話しようと約束していたのに……。どう話しかけようか悩んでいるうちに時間だけが過ぎてしまった。あと30分で明日になってしまう。もうユウト様はお休みになってしまったでしょうし、今日買ったこれはまた別の日に……。



―ーコンコン



 ……こんな時間に誰でしょう? 不思議に思いながらドアを開けると……


「ッ!? ユ、ユウト様!?」


「遅い時間にごめん。今ちょっと時間いいかな?」


「は、はい」


 わ、わざわざ私の部屋に来てくれるなんて……。と、とにかくこれは謝罪をする絶好のチャンス! この機会を逃すわけにはいかない。


「あの……」「あのさ……」


 二人の声が重なる。


「あっ、ごめん。お先にどうぞ」


「は、はい。あ、あの……今日は本当にすみませんでした! 失礼な態度を何度もしてしまって」


 私は頭を深く下げてお詫びをした。


「え? ……いや、なんでユキが謝るんだ? 俺の方こそごめん。知らないうちにユキを怒らせることをしちゃったみたいで……」


「なんで私が怒ったのか分かりますか?」


「……なんていうか、あまねちゃんやミーロンとおしゃべりしたから?」


 確かにそうだけどそうじゃない! ……もう正直に全部言ってしまいたいけど、そうしたら完全に私が嫉妬してるみたいになってしまう! それだけは絶対イヤ!


「もしそうじゃないんだとしたら、なんで怒ってるのか教えてくれないか?」


 ……もしかしてユウト様はあえて言わせようとしてる? それで私が恥ずかしがってる姿を見て笑おうと……。なんかそう考えるとますますムカムカする。


「……バカ」


 結局、こうして不満を伝えるしかできないのが悔しい。


「ごめん。とにかく悪かったよ。……少し話がそれちゃったけど、ここに来たのはユキに渡したいものがあったからなんだ。ユキ、これを受け取ってくれないか?」


 そう言ってユウト様は私に紙袋を渡してきた。いったい何でしょう?


 というか、この紙袋私が買ったものと同じお店の……


「あっ、これって……」


 中身はピンク色の手袋だった。


「今朝ユキが階段で転んだ時、ユキの手がすごく赤くなってたことに気が付いてさ。それでお昼ごろに商店街に行ってユキにプレゼントするために手袋を買いに行ったんだ」


 ……考えてたことは同じみたいですね。


 っていうかあの売り子さん、全部わかってたんですね。なんて恐ろしい。


「ありがとうございます。すごくうれしいです。……それと、実は私もユウト様にプレゼントがあるんですよ」


 私も同じ紙袋をユウト様に渡す。


「え? ホントに? ……ってあれ? もしかしてこれって……」


「フフッ、開けてみてください」


 中身は黒色の手袋。フフッ、ユウト様凄くビックリしてる!


「あっ、これって色違い……」


「ユウト様、さっそくつけてみてください!」


「あ、ああ」


 あったかい部屋で手袋なんてつける必要はありませんが、私のワガママに少しだけ付き合ってください。なぜかいっしょに手袋を付けたくなってしまったので。


 お互い手袋をつけ終わったあと、私はちょっとだけ上目遣いでユウト様と顔を合わせた。するとユウト様は真っ赤な顔になって顔をそむけてしまった。


 ……フフッ、いいこと思いつきました。散々私にモヤモヤさせたんですからちょっとくらいからかわせてもらいいます!


「フフッ、お揃いですね。……どうしましたか? もしかして照れていらしゃるとか?」


 あっ、動揺してる。

 

「そ、そんなことないって!! ……ああ、そうだ! 明日は早いからもう寝ないと! ありがとうユキ。この手袋大切にするよ。それじゃあまた明日!!」



―ーバタンッッッ!!



 ……少々からかいすぎてしまいましたかね? でも、これでしばらくは私だけを意識してもらえるでしょうし、良かったかもしれません。フフッ、おかげで今日は気持ちよく眠れそうです。





 おやすみなさい。ユウト様。

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