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World after the rain Ⅰ   作者: 神代 夏望
6/11

梅雨の憂鬱

 作戦会議から数日。あれから誠と昼間に現地調査に行ったりしたが、なんの情報も手に入らなかった。僕の気分と天気が比例しているように今日も曇り。

 早朝に起きられた今日は、早めに大学に行くことにする。丁度昨夜に本も読み終わった事だし、図書室にでも行こうかなー。なんて考えながら廊下を歩いた。

 図書室に入るとまだ誰も来ていなかった。(朝から図書室に来る人なんてあんまり居ないだろうなー。)

 そう思いながら、お気に入りのシリーズ物小説の場所に向かう。次の巻を手に取ろうとすると同時に、図書室の扉がガラッと開いた。パッとそっちの方向を見ると、黒髪マッシュで、丸メガネ、『布団が吹っ飛んだ』と、描かれたTシャツを着ている男の人が、少し驚いた様に僕をじっと見つめていた。それからハッとして軽く会釈をしてくれた。

 (知り合いだったかなぁ……?)

 記憶を探りながら、とりあえず会釈を返す。男の人が図書室の奥の方へ進んで行くのを見送って、僕は図書室を離れた。そういえば、あの人図書室でたまに見かけるな〜。と、講義室に着いてから思い出した。それから、講義が始まるまで時間があったので、僕は借りたばかりの本を読み始めた。


 1日の講義が終わって、僕は誠と一緒に廊下を歩いていた。勿論、サインズモールの話をしながら。

 「結局情報集め、あんまり進んでないね……。」

 「だなー……最終兵器出しちゃうかー。」

 「最終兵器……?」

 「うん。まぁ、任せとけって。明後日には新しい情報も入るよ♪」

 話に花を咲かせていると、廊下の反対側から、今朝図書室で会ったあの男の人が急ぎ足で歩いてきた。

 (あっ。)と思ったが、直ぐに通り過ぎてしまったので、話しかける事が出来なかった。

 「おい。樹、聞いてる?」

 「ん……え?」

 誠の声でふと我に返った。その後もずっと誠とあの噂について話をした。そして夜に電話する約束をしたのだが、誠が電話に出ることは無かった。

 結局、最終兵器の正体を教えてもらえないまま、その日は終わった。



 翌日の朝。

 ニュースでサインズモールの西側に斬撃痕が見つかったと、報道されていた。

 確かに、先日誠と訪れた際には無かったなー……。と思い返しながら、携帯を手に取り履歴を確認。誠からのコールバックは無かった。音信不通とは意外と不安になるものだ。もう一度かけてみようか、否か、迷ったが大学に行けば会えるだろうし、そこまで心配するほどのことでもないか。割り切って考えよう。と、自分に言い聞かせた。


 講義室に入ると、当然の様に誠がいた。僕は誠の隣に座り昨晩の事を聞いてみる。

 「誠。昨日の夜何かしてた?」

 「え、いや。なんで?」

 「んー?なんか、電話したのに出なかったから。忙しかったのかなーって。」

 「え、マジ?あー……ごめん。」

 携帯を見ながら誠は申し訳なさそうに謝る。

 「いやいや、謝らないでよ。別に怒ってる訳じゃないしさ!電話に出れなかったり、気付かないことぐらい僕もあるし。それに、忙しかったんでしょ?クマできてるよ。」

 「まぁ……。お前本当に良い奴だな。」

 少し照れ臭そうに笑う誠を見たのは初めてな気がした。



 午前の講義が終わって、僕が学食を食べに行こうと誠を誘うと、彼は「先約があるから。」と言って断られてしまった。

 「分かった。」

 とは言ったものの、納得が行かないまま食堂へと向かった。


 食堂も、今朝のニュースの話題で持ち切りだった。至る所で『サインズモール』、『斬撃痕』という単語が飛び交っている。一人でいても、まるで誰かと食事しているかのような錯覚に陥る。もしかして、誠は『斬撃痕』の事で1人、調べ物をしているのかもしれない。例の噂も関係が有るとしたら、なんだか申し訳ないな……。

 今日は午後に受ける講義がない。家にかえって本の続きでも読もうかな。とか、最近暑くなってきたからエアコンの掃除でもしようかな。とか、あれこれ考えながら席を立った。


 出入り口まで来ると、外ではいつの間にか雨が降り始めていた。傘を指しながら歩くと、生暖かい空気が、ムワッと僕を包んだ。湿気の中にも暑さがあり、夏がもうすぐそこまで迫っている事が手に取るように分かった。

 梅雨明けはもうすぐだろう。開けてしまえば例年通り、カラッと暑い日が続く。日もだいぶ長くなって、18時過ぎても外は明るくなっているはずだ。でも、暫くこのジメジメと、何処か寂しい雰囲気の季節とは会えなくなるのだ。何となく悲しい。1年経てばまた巡ってくるけど、それはきっと、今のものとは全く別物のような気がする。

 来年の今頃、僕はどうしているんだろう……。今年よりも優れた自分でいられるんだろうか……。

 雨音の中、僕は何処か遠くを見ていた。



 30分程前……(誠)

 せっかく樹が昼食に誘ってくれたのだが、俺はその誘いを断った。勿論、理由有りで。俺は佐伯 翔に会いに行かねばならない。やっとこの日が来たのだ。今までドローンを追跡させた甲斐があった。当人にはバレるような距離で飛ばせていたにも関わらず、破壊はしてこなかった。そのおかげで、レグメリアの下っ端の働きぶりと、内部の事情がわかった。調べれば調べる程、佐伯 翔とは謎の男だ。

 佐伯が居るA棟の2番目に大きい講義室に向かって歩いていると、途中の廊下にの曲がり角で、顔色の悪い佐伯と、ぶつかりそうになった。

 「うわっ……」

 出会い頭に佐伯が声を漏らす。

 「すみません。」

 「こちらこそすみません。でも…」


 ドンッ


 お互いの不注意を謝罪した後、そのまま通り過ぎようとした佐伯を、横の壁に手を着いて引き留める。彼は、メガネの奥の瞳をグッと細め、俺の顔を睨み付けてくる。しばらくしてから、ハッとして佐伯はいきなり弱気になった。

 「な…なんですか…。」

 (あれ……?俺、こいつになんかしたっけ?まぁ、弱気になってくれるに越したことはないか!!)

 俺は思わず笑みが溢れる。

 「丁度良かった。佐伯くん。」

 「……。」

 彼は黙って俺を見ていた。

 「…いや、浅見優一君…かな。」

 「……っ!!」

 俺がその名を口にした途端に、彼はあからさまに取り乱した。酷く動揺している様子がよういにわかる。

 「あはは。そんなに驚かなくてもいいじゃないか。君だって気付いてただろう?俺のドローンが君の後をつけてたことぐらい。」

 「えぇ……まあ。」

 「実はちょっと話があるんだよねー。」

 俺がそういうや否や、彼はより一層不快そうな顔をした。

 「今ですか。」

 「いや。明日とか空いてる?勿論、嫌なら良いんだよ?ただ代わりに君の個人情報とか、ネットにバラ撒いちゃうかもー。」

 「……はぁ。…分かりました。」

 溜息をつきながら気だるげに返事する佐伯は何かを諦めたように見えた。とても大きな何かを。

 「話が分かるじゃん。佐伯くん♪」

 「…。」

 「じゃあ、明日の午前11時に駅近のカフェ、『Lamp』に来てねー!!」

 そういうと、俺はスキップしながら食堂に向かった。腹も減ったし、樹にも会いたかった。会って、早く良いニュースを聞かせてあげたかった。

 お昼時、と言うこともあって食道はかなり混んでいた。パッと見たところ、樹は見当たらない。携帯で連絡を取ってみたが、返信はない。たまには1人の食事でも良いか。と、思い直しお気に入りのカレーライスを食べた。

 今日も天気は雨。俺は湿気が多く、気温もそれなりに高いこの季節が嫌いだ。テンションも下がるし、物の管理も慎重にならねばならない。今日は俺も午後の講義は無い。樹と合わせて同じ授業を選んでいるからだ。

 この先どうするかとか、そういうのも考えてはいない。未来なんて、あってない様な物だ。欲しいものが手に入れられればそれでいい。1番いいのは、世界を自分が変えられればそれでもいいと思う。その為の準備は怠らないつもりでもある。

 俺は見えない先を見ようとして、雨が降りき切る外へと足を踏み出した。

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