作戦会議
第2話 作戦会議
家に着くと、僕は早速噂について調べ始めた。普段あまりパソコンを使わないせいで、僕はとある変化に気が付かなかった。大量に届いていたアップデートなどの通知メールを無視して、インターネットを開く。
検索欄に『サインズモール 霊 噂』で調べてみる。するとかなりのヒット数があった。適当に上から順に出てきたサイト見てみる。内容はイマイチで、貼られていた画像もいかにも加工しました、というような雑な写真が数枚有るだけだった。
次も、そのまた次のサイトも見てみるも、新しい情報は無かった。うーん…と、唸りながら、上から4つめのサイトを開いてみると、大きく『貴方に必要な情報をお届けします。』と、書いてあった。
(うわぁ……嘘くさいなァ……)
と、思いながらも続きを読んだのは好奇心に負けたからだった。
画面のカーソルを下にスライドさせて続きの内容を確認する。
『本日の特集は、最近巷で噂されているサインズモールの女の霊についてです。私が独自に調査したものです。宜しければ↓下記の記事を見ていってください。』
そう書かれた下には、加工とは思えない程リアリティさが溢れる写真が貼ってあった。しかもそれらの写真は十数枚程ある。これ程の証拠があれば、嘘だとは思えない。よく見ると、※で、『※これらの写真は一切加工をしておりません。』と、書いてあった。
さらにその下にはこれまた丁寧な説明というか体験談の様なモノが書いてある。
『この女の霊は、何かしらの思いがあの場所にある様。午前0時~午前4時まで姿を確認する事が出来ました。しかし、その想いが”何か”までは私には分かりませんでした。そして、別の噂で言われている呪いや行方不明については、私も現段階では分かりません。呪いがどの様なものかも不明です。しかし、私は真夜中にサインズモールに調査に入りましたが、無事帰宅することが出来ました。上記の2つについては引き続き調査を続けて見ますので、本サイトの更新をお待ち下さい。さて、長くなりましたが勇気がある方は行ってみるのも良いかもしれませんね。肝試しの様な形で行くと盛り上がるかも…!?ただ、行方不明の方が出ているのも事実の様なので、自己防衛の準備も怠らないようにすると良いかと思います。なお、私は一切の責任を負いかねます。それでは閲覧者の皆様、good luck!!』
(なるほど…。)この記事でかなりの情報が手に入った。作戦会議をスムーズに進める為に軽くノートに纏めておく。
それにしても……、この記事を書いた人はかなりの情報屋のようだ。自己紹介の隣にQRコードコードがあった。恐らく、モバイル版のページのものだろう。スマホで読み取って見るとやはり同様のページだった。パソコンよりもスマホで見れるようにしておいた方が便利だろうと、その時僕は思った。
その後も幾つかサイトを回ってみたものの、人が行方不明になる呪いについては具体的には分からなかった。ただ、行方不明の件に関しては、誘拐犯の説が浮上しているらしかった。まぁ、ネットの記事を鵜呑みにするのはあまり良くないし、信じてはいないけど、呪いとかって言うよりかは信じられるような気がする。
結局を言うと新しい情報は得られなかった。そんな簡単に進むわけないよな、なんて思いつつ僕はパソコンを閉じた。それから軽く纏めたノートを改めて眺めてみる。
(ノート)
・女の幽霊→本当かも。AM,00:00から、AM,4:00まで見る事が出来る。
・呪いで行方不明→呪いの真相は不明。具体性無し。但し、行方不明者は出ている。誘拐犯の可能性有り。行く場合は自己防衛策を練る。
少々少ないかもしれないが、これだけ具体的なら誠も文句は言わないだろう。ノートを明日出かける用の鞄に突っ込んで、代わりに本を手に取る。少しだけ読もう。そう思って読みかけの本を開いた。
翌日……
いつも通りに講義を受けた後、誠と作戦会議をする為に、行きつけであり僕のバイト先でも有るカフェに向かった。店に入ると、とりあえずカウンター席に腰掛けて、アイスコーヒーを2つ頼んだ。
「で、情報は集めてきたかー?」
早速、と言わんばかりに誠がノートを広げる。僕も昨日軽く纏めたノートを鞄から取り出して見せる。
「少ないけど……割と細かく調べたよ。」
目の前に置かれたばかりのアイスコーヒーを読みながら僕は呟く。誠はと言うと、聞いているのかいないのか、僕が書いたノートをジッと見ている。
暫くして、誠がフーンと興味深げに返事をした。
「よくここまで調べたな。」
「まぁね。」
(あのサイトの事は黙っておこう…。)と、思った。
「俺のノートも見る?」
「あぁ。」
誠からノートを受け取る。
(ノート)
・午前0時~4時までモール内全体を徘徊しているらしい。
・4階の出現率が高い。
・現れると霊障が起こる。(カメラの故障など)
・自己防衛の徹底
・塩は必須、追いかけられたら逃げる。
(なるほど)
幾つか同じ内容があった。信憑性は高そうだ……だが、霊障とかまでは考えていなかった僕は少しずつ恐怖を感じ始めていた。もし、ここに書かれているのが本当だとしたら、かなりマズイ。興味がある程度で何とかなるものでは無い。少なくとも、僕の手に負える事では無いことは確かだ。
(だって僕、足遅いしなぁ……)
嫌な汗が背中を伝った。
怖気付いているのを隠そうとして、コーヒーを飲んだが、噎せてしまった。そんな僕の目に、誠の視線は注がれている。お互い黙り込む事、数分。沈黙を破ったのは誠の方だった。
「もしかして、ビビってる?(笑)」嘲笑、或いは苦笑だろうか。どちらとも言える表情をしながら、コーヒーにガムシロップを入れている。
「いや……別にビビってないけど。」
無理に落ち着いて絞り出した声は、さぞ、見苦しく聞こえただろう……。その証拠に、誠は隣で声を押し殺して笑っている。それから急に、何か思い出したかの様に話し始めた。
「お前は、昔からそうだよな〜…w怖いもの苦手で、すっげービビりじゃん?小学生の頃、キャンプがあった時もさ、肝試しの時めっちゃビビってたしさー…」
「……。」
(あれ……?そうだっけ……)
昔の話をされたとき、僕は不思議な違和感を覚えた。でも、それが”何か”は自分でも分からなかった。
正直、僕は昔の事を余り覚えていない。成長するに連れ、記憶なんて薄れるものだろうし、昔の事をあまり覚えていない事もまぁ、無くはない話だろう。
僕は空気を壊さないように、薄ら笑いを浮かべた。
それから、少し雑談を混じえながら、作戦会議をした。
談笑していると、カウンターに立っていたマスターが、カップを磨きながら、ふと気になることを言った。
「死者の念には何か理由がある。哀しくも辛く、死に悶えたにも関わらず、まだ苦しんでいる。その理由は、何だろうねぇ…。」
「…。」
「…。」
僕たちは二人して、固まった。お互い顔を見合わせ、マスターが言わんとしてることを理解しようとした。が、意味深な感じはするのだが、何がそんなに引っかかるのか分からないまま、僕達はお会計を済ませ、カフェを出た。
外に出ると、空の雲行きが怪しかった。青みがかった灰色の空だ。
「うわぁ……こりゃまた、降ってきそうだな〜…。早いとこ帰ろうぜ。」
「あぁ。うん、そうだな。」
私は、友人の言葉に納得し、今日は解散する事にした。
私が家に着くと同時に雨が、ザーッと降り出した。今日は濡れなくて済んだ事に少し喜びながらも、洗濯物が外にある事を思い出し、慌てて取り込んだ。
雨が降りしきる街を少し眺めながら、僕は昔の事を思い出そうとしていた……。