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六話目

「さて、皆にはすまんが、新しくここに来たものがおる。その為に時間を割くが宜しいか?」


 学園長が教壇の上に立ち、ゆっくりと教室全体を見渡しながら話し始める。


「いーよいーよ。ハゲがそう言うなら俺らは別にな」


 と口にしたのは、先程俺へ、いの一番で光のナイフを放ったやつだった。周りを見ると問題児たちが静かに頷いている。

 へぇ。ここまでこの連中から慕われてるとは……思った以上に良い人なのかもな。


「サシュタイン君。さっそくじゃがこのE組には授業という概念がない」


「え? 第二学園と随分違うんですね。じゃあ、何をするんでしょう?」


 俺は純粋な疑問を述べた。剣術、槍術、それに魔法について。第二学園ですら授業はあった。それをより施設が整った第一学園で行わないという合点がいかなかったからだ。


「それは追って話すつもりじゃ。その為に授業が無い理由をまずは話そう。理由は三つある。一つは教える者たちの数が足りん。二つは教えたいという者がおらん。三つ目が教える意味が無いということじゃ」


「どういうことです?」


 俺の疑問に学園長は魔法でチョークを動かし、黒板にスラスラと文字を書いてく。


「まず一つ目と二つ目についてじゃが、このE組は儂が勝手に作ったような者じゃ。ここ用に金も人も割り振られている訳ではない」


「それが一つ目の教える者たちの数が足りないという事ですね」


「うむ。そして教師たちもそれ相応の教育を受けてきた者たち。ま、A組出身がほぼ、B組や第二学園の出身の者も極々一部で居なくはないがな」


 そう語りながらそこまで一息で黒板に記すと、一旦チョークを置きこちらに振り向き言葉を続けた。


「そんな教師たちにはE組はゴミの集まりだと思われておる。ゴミには何を教えようとも意味は無いとな」


 そして手を後ろで組んで、ゆっくりと左右へ教壇を歩きながら語る。


「ゴミはゴミだ。評価の対象にすら上がることは無い。AからDとEとの間には超えられない壁があるということじゃ。同じ土台で評価されることは無い。残念ながら殆どの教師がそう思っておる。特に教頭のアルファポとその取り巻きの三人……ま、そこはとりあえず良いじゃろ」


「殆どじゃねぇだろ! ハゲ以外の皆がだろ!」


 俺の背後から怒りにも似た叫びが聞こえる。その言葉から俺がこの学園の教師がどんな奴らなのか、想像するのは容易かった。


「と、ここまではいいかの?」


「ええ、ここまでは二つ目の理由ですね」


 俺は学園長の言葉に二つ返事で答えた。俺の答えを聞いた学園長は、一つ頷き、再度語り出した。


「さて、授業もない。教える者もいない。ではここで何をするのか、という疑問が生じる訳じゃが……簡単に言うと迷宮探索じゃ。実戦じゃな」


「やはり第一学園にもあるんですね」


 第二学園にも迷宮があり、力のある生徒はそこへ潜ることが許されていた。第一学園にもあるのは予想が出来る。どちらかというと、迷宮があるから学園が出来たと言っても過言では無いだろう。それほど実戦には最適の場所だからだ。


「うむ。だが、この話には少し続きがある。その続きを語る前に、三つ目の理由を話しておこう……ここに居るものに知識を教えても余り意味が無い理由。それは使える力が限られているからじゃ」


 そして学園長は握った手を前に突き出し、一つ一つ指を立てながら言葉を続けていく。


「例えば毒を操る、筋力を増加させる、光の剣を生み出し操る、そんなたった一つののことしか出来ない者ばかり。そんな特異な者たちに他のことを教えても意味は無い。使えないからのぉ」


「なるほど。だからここにある迷宮の探索をさせてるんですね」


 俺は納得してそう呟いた。だが、学園長は笑みを浮かべながらこう返してくる。


「いいや、ここの施設は使えんよ。ある事はあるがな」


「は! 俺たちに優等生の連中が負けるのが嫌なんだろ! だから使わせねぇってやつだ」


 あるのに使えない。だが、しているには迷宮探索だと。それはさすがに俺にも理解できない言葉だ。


「え、それでは何をしてるんですか?」


 すると、学園長は一つ咳払いをし、胸を張って偉そうにこう話す。


「突然じゃが、儂は結界魔法を一番の得意としておる」


「確かに突然ですけど……そう言えばさっきも結界を張ってましたね」


 かなり大規模、しかも俺たちの戦いがどれほどの物かわからない中で結界を張ったんだ。かなりの力を持ってるのは明白だ。中でどんなドンパチをやろうとも外に被害を全く出さない自信があるってことだ。


「その魔法でな。迷宮を作るんじゃ。魔物も出る。存分に戦える迷宮をじゃ」


「そんな魔法……聞いたことも無いですね」


「そうじゃろ、儂唯一の魔法。螺美輪好と呼んでおる」


「しかし、そんな大規模な魔法を使って大丈夫なんですか?」


 大規模な上、中で多数の戦闘が繰り広げられる。その衝撃は当然術者にも返ってくる。俺はそれに学園長が耐えられるかが心配だった。


「心配など無用じゃ。そんじょそこらの連中がどれほど暴れ回っても儂はビクともせんわい。打ち破れるモノならやってみるがいい」


 と、俺の疑問に学園長は胸を張って答えた。とてつもない自信だ。昨日今日編み出した魔法でないだろうし、今までの経験からそうなのだろう。


「だが、一つ問題がある。死んだらお終いじゃ。何処に行くのか儂にもわからん」


「へぇ、それは問題ですね」


「問題だと思ってない顔をしておるな」


 学園長は少しの笑みを込めた顔で俺の表情を覗き込んできた。俺はそれに対して軽く肩を竦めながらこう答える。


「死ななければ良いワケですからね」


「さて、こんなところか。語るべき話は」


 そこまで話すと学園長が両手を突き出す。するとそこには光の輪のようなものが現れだした。


「皆が待ちかねた時間じゃ。存分に暴れてくるが良い!」


 E組の生徒たちは待ってましたと言わんばかりに、我先にと声を上げながらその中に入っていく。俺はそのまま皆に続いて、その光の輪の中に入っていった。

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