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五話目

 扉を開けた瞬間、俺に向かってナイフのような者が真っ直ぐに向かってきた。そして皮一枚ほど離れた所を俺の頬を掠めるように通り抜け背後の壁に突き刺さる。振り返り飛んできた者を俺が確認すると、それはすぅっと消えていった。


「おいおい、とんだ歓迎だな」


 俺は肩を竦め教室に向けて冗談混じりにそう言った。


「よく言うぜ、避けもしなかったくせにな」


 長い前髪を垂らし、視線が見えない奴の言葉だ。俺の方を見ずにじっと自分の指先を見ている。その指先に浮いているのは光の刃。先程のナイフのようなものはコイツの魔法だろう。


「ケッケッケ、身動き一つ取れなかったのかも知れないじぇ」


 不気味な笑いと共にそう言ったのは、前髪を垂らした奴の横に座っていた老婆だ。そう、老婆。この学園には十六になる歳から五年しか通わない。つまり一番年齢が高くても二十歳になる。なのに座っているのは老婆。学園長より遥かに歳をとっていそうな老婆である。


「いやぁ、我が級友が無礼を働いてすまないね。君が新しいクラスメイトだね」


 すらっと高身長の優男が右手を出しながら俺に向かってくる。このE組に相応しくなさそうな優等生といった雰囲気であるが?


「その手は?」


 俺はそう尋ねると、そいつはこう答えてきた。


「もちろん、握手だが……」


 だが、俺の問いの意味していることはそうでは無かった。だから俺はこう問い直す。


「では無くて、その手に隠しているのは何だ?」


「もちろん、暗器だが?」


「そうか、暗器か」


 俺は一つ頷いてから振り返り学園長にこう告げた。


「学園長、さっきの言葉を一つ取り消していいか? どうやらココには問題児しかいないようだ。他と分けたい気持ちは分かる」


「あはは! 言うねぇ! だが間違っちゃいないよ!」


 奥の大きな筋肉質な女が腕を組みながら豪快に笑い飛ばす。一番奥に座っているはずなのに一番でかく見える。遠近法を無視した女だ。


「ここに居るのは他に居られると困る生徒ばかりじゃ。理由は……見ればわかるな?」


「ええ、ここまでの歓迎をされるなんて思ってもみませんでした」


「奥の人達も相当なのでしょうね」


 と俺は奥に座る数人へとチラリと視線を送る。黙って座っているが、逆にこの状況でただ座っているだけというのもある意味異質だ。


「ここ第一学園にも強引に我が子を……とねじ込む貴族もいる。大抵そういう者は力も無くD組に居れば良い。そして大体がそうなる。が……」


「そうならない者もいる、と。力はあるのに上の組に入れることが出来ない。まぁ、長子以外は俺と似たような状況になるでしょうからね」


 長子は親の資質を大きく受け継ぐ。特に魔力や魔法の系統などは顕著だ。殆どがそうなのだが、極々稀にそれを凌ぐ二番目、三番目の子供産まれることもある。また、貴族ではない家柄からも居なくはない。この階級が重視される国で、自分よりも遥かに身分の低い者が自分を凌ぐ才がある。嫉妬心から生まれる差別意識のようなものだ。


「そういうことじゃ。ちなみに儂は大体の強さを見る魔法を使うことが出来る。まぁ組み分けに使うことはないが……」


「へぇ、聞いたことの無い魔法ですね?」


 俺は耳にしたことの無い魔法に少し興味が湧いた。


「ま、儂だけが見えたところで余り意味も無いがな」


「確かに。テストの成績がそのまま実戦での勝敗に繋がるワケでは無いですからね」


 戦いが単純に数値だけで決まる訳では無い。相性、戦い方、様々要素が絡まって優劣が決まる。数値の大小は目安にはなるが、実際の勝負において、それで勝ち負けは決まらない。それに、数値が見えるのが学園長だけならば、その数値を他人に伝えたところで信憑性には欠けるのは明白だ。


「そうじゃ。だから、儂の数値で高いからこやつの方が強い。なんて論争は無駄じゃ」


「なるほど。ちなみに大体どんな数値が出るんですか?」


「そうじゃな……一般人が大体四くらいじゃ。そしてA組の生徒ともなると、四千くらいがゴロゴロおるな」


「それは凄いですね」


 まさしく千人力というワケだ。傲慢になる奴がいてもおかしくはない。


「安心するがよい。ココ(・・)にもゴロゴロおるぞ」


「それは恐ろしいですね」


 と、呟き俺は再度教室を見渡す。すると学園長が少し笑みを込めたような声色で俺に語り掛ける。


「あまり怖がっているようには見えないんじゃが?」


「その理由は学園長が一番ご存知なのでは?」


 と、俺は軽く微笑み返した。すると学園長は一つ頷く。


「違いない、ちなみに素の火力や武力の多さがどれほど有るか。儂はこの魔法を素火武多有と呼んでいる」


「あ、一ついい事を教えてあげますよ」


 俺はとある事実を思い出し、右手の人差し指だけを軽く立てた。


「なんじゃ?」


「もう一度スノウを見てみて下さい。多分面白いことになりますよ」


 スノウは俺への誓約をかける魔法を常に使い続けていた。それを解放したんだ。前よりも強くなっていることは間違いない。


「ふむ、覚えておこう」


 学園長はニヤリと笑った。俺の意図していることが伝わったのだろう。なかなか喰えないお人だな。と……


「で、俺の席は空いてるあそこでいいです?」


「そうじゃな、詳しくは後ほど話すが、E組に席など意味は無い。好きなところに座ると良かろう」


 俺はその言葉を聞くと、指さした席に向かった。その俺の背後から学園長がこう問いかけてきた。


「ところで一つ取り消すといったが、取り消さないのは何を……じゃ?」


 俺はその問いに振り返ることなくこう答えた。


「ここは思ったより居心地が良さそうということですよ」


 と。

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